第3話 誘惑

 しばらく時間は経過して昼休み。


 4時間目の授業が終了した後に、俺は耐え切れずに逃げるように教室を後にした。そのまま廊下を進み、最上階の屋上に向かった。


 幸運にも屋上には誰も居なかった。


 先ほどまで涌井を中心にクラスメイトの女子生徒達から視線を突き刺されるように受けていた身として、ようやく解放された気分になる。


 空き教室でエスケイプした後、3時間目、4時間目と涌井の視線を常に感じた。涌井は隙があれば俺に意味深な視線を向けていた。


 その涌井の視線が何という不気味だった。まるで獲物を狙うような視線だった。


 そんな涌井が恐くて屋上に逃げて来た経緯もある。


「ふうぅ~〜。ようやく落ち着ける」


 普段よりも大きな独り言を呟くと、教室へのエスケープと同時に持ってきた弁当袋を開く。


 もちろん手作りである。


 俺は自身で作った白米、ウインナー、卵焼き、ブロッコリーなどを良く咀嚼して完食する。本日は疲労感が強く、いつもより早く食べ終える。思った以上に疲労があるのは無意識に脳を回転させていたためだろう。


「ふぅ~」


 俺は屋上のベンチに座りながら春の風に当たる。


「あ! 居た居た」


 屋上のドアが開き、涌井が姿を見せる。ようやく苦労して発見したように俺を指す。


「わ、涌井さん!? 」


 突然の涌井の登場に反射的にベンチから立ち上がってしまう。


 襲われるかもしれないと思い、涌井に対して大きな恐怖を覚える。今はクラス1の清楚系美少女が恐怖の対象である。俺のあそこを求める変態である。


「そんなに驚かなくても。まあ、狙いは前と変わらないんだけどね」


 涌井は嬉しそうに微笑む。


 その微笑みが俺にとっては不気味であり、恐かった。


「どうして俺のあそこを求めるの? 」


 俺は涌井があそこを求めるを知りたくて率直に尋ねる。


「うん? なんでそんなこと知りたいの? 」


 涌井は不思議そうに首を傾げる。


「だって俺は今日、パンツ一丁で女子更衣室に突撃したんだよ。女子達からは引かれ、嫌われてるのに。それなのに接触して、俺のあそこがみたいなんて意味が分からない」


「なんだ。そんなことか。いいよ。教えてあげる」


 涌井は納得したように首を縦に何度か振る。


「まず前提として私は我妻君のこと引いてないし、変態だとも全く思ってないよ。私は他の女子とは違う。それだけは理解して欲しい」


「う、うん」


 俺は首を縦に振る。


「辛いよね。女子達に引かれて嫌悪感を抱かれて拒否反応をされて。でも大丈夫だから。私は違うから。引かないし、変態扱いもしない。逆に、パンツ越しでも存在感を放つ我妻君のあそこに惹かれちゃったよ。もう頭から離れないで困ってるんだよ。だから、もう1度ね。我妻君のあそこの大きさをパンツ越しに拝みたいの。ダメかな? 」


 涌井は以前と同じで両手を合わせて要望を伝える。


 その姿から涌井の気持ちは嘘偽りなく本心だと直感的に理解する。


「それに。女子に股間を見られることは男の子としては悪くないことだと思うけど。違った? 」


 涌井は小悪魔な悪い笑みを浮かべる。そのまま俺の下にゆっくり歩み寄る。いつの間に涌井は俺の目の前に佇んでいた。


「そ、それはそうだけど」


 俺は思春期の性欲がエネルギーとなる本音を隠すように涌井から視線を逸らす。恥ずかしながら涌井を直視できなかった。


「昼休みも時間が限られてるからさ。場所を変えて私に見せてくれない? 我妻君の自慢の大きなあそこを。お・ね・が・い♡」


 涌井は俺の耳元で囁く。俺の性欲を刺激し、誘惑すように。


「わ、分かったよ」


 俺は涌井の誘惑と自身の性欲に敗北し、要望を受け入れる。


「やった! ありがとう~!! 」


 涌井は俺からの了承を得ると嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。今日で見た1番の笑顔であった。


「それじゃあ。ここでは何だから、さっきの空き教室に移動しようか」


「う、うん」


 涌井を先頭に俺は屋上を後にした。涌井は鼻歌を刻みながら、上機嫌に歩を進める。


 俺の大きいらしいあそこを披露する正式な場所に移動するために。

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