第2話 クラス1の清楚系美少女からの接触

 体育の次の授業。科目は数学。


 俺は教室の自身の席に座りながら、嫌いな数学の教員の解説を聞きながら、嫌々ノートを取る。


 教室内では1つの変化が起こっていた。


 クラスメイトの女子達の大半が俺に引き、嫌悪感を抱いていた。そのようなオーラや視線が俺をグサグサと駆逐するように襲う。


 その証拠に隣の女子は俺を避けるように他の男子よりも距離を取っている。俺から自身の席を遠ざけている。完全に拒否反応が見て取れる。


 こんな光景を目にすれば当然、心に傷がつく。胸が痛い。


 一方、そんな心境に身を置く俺とは対照的に、パンツ一丁での突撃を指示したクラスの陽キャ達は楽しそうにニヤニヤと授業に耳を傾けながら笑みを零す。今の状況を楽しんでることは容易に理解できた。


 俺は大きな後悔を覚えながら、大嫌いな科目の数学の授業の解説を聞きながらノートを取り続けた。


 教室では俺の居場所は無く、居心地も悪く、精神的な負担は大きかった。それこそ今すぐにでも帰りたかった。


 そんな地獄の空間に身を置きながら、疲労感を蓄積して2時間目の数学の授業を受け続ける俺であった。


 キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。


 ようやく45分間の長い授業が終わった。人間の集中力は最長で45分と言われているが、とんでもない。嫌いな科目だと5分も持たない。すぐに空気のように集中力が抜けてしまう。


「見て見て。なんか変だよ」


「そりゃそうだよ。パンツ一丁で女子更衣室に突撃する変態だよ」


「正気じゃないよね」


 嫌いな数学の授業が終了し、安堵していると、クラスメイトの女子達からの嫌悪感の帯びた視線がグサグサ突き刺さる。俺が息を吐いて疲労感を和らげようとするだけで変態扱いだ。


 これも仕方が無いのかもしれない。今だと何をしても変態扱いされ、引かれて気持ち悪いと言われる。全てはパンツ一丁で女子更衣室に突撃したがために。


「っ」


 しかし、俺はメンタルが強くない。逆に弱い。だから、このようなアウェイな空間に耐えれるほど肝は座っていない。


 そのため、俺は今すぐに教室から、この地獄の空間からエスケープしようと試みる。


 素早く自身の席から立ち上がり、駆け足で教室を後にする。


 そんな情けない姿を見て、クラスの陽キャ達は笑い、女子達は邪魔者が消え、安心した表情を見せる。


 しかし、1人の女子だけは特に嫌悪感を示さず、俺に引いた様子もなく、俺の背中を席に座りながら目で追っていた。


 俺が教室の後方の戸から退出した事実を確認すると、席からゆっくり立ち上がり、俺に倣うように早歩きで教室を後にした。


 一方、俺は静かな場所に救いを求め、トイレに向かう。教室のすぐ近くなため、時間は掛からない。


 トイレに突入すると、両手を洗う。特に尿意は無く、用を足す予定はない。


 両手を水で洗って少し落ち着くと、トイレから退出し、逃げ場所を探そうと廊下に足を踏み入れる。


「あ、いた! ねえねえ我妻君! 」


 俺がトイレから出た直後、女子から声を掛けられる。


 こんな俺に声を掛ける女子が?


 俺は声色から女子だと判断して声のした方向に視線を走らせる。


 俺の瞳に黒髪ロングヘアに乳白色のきれいな肌に、程よい形のバストが制服のブレザーからも強調される女子生徒が映る。


 俺は、この女子生徒の名前を知っている。逆にクラスメイトであれば知らない奴の方が稀有だろう。


 涌井真由。俺と同じクラスであり、クラス1の清楚系美少女と謳われる女子生徒だ。


 男子だけでなく女子からも人気があり、男女関係なく分け隔てなく接する印象がある。それで、この整った顔立ちの美少女だ。人気が出ない方がおかしい。


「ねえ、返事がないけど。もしかして我妻君じゃない? 名前間違えてた? 」


 涌井は確認をしようと試みる。


「あ、ごめん。我妻で間違えてないよ」


 俺は涌井の言葉により脳内での思考を停止し、疑問を解消するために答える。


「よかった。名前を間違えてたから反応が無いと思ってたよ」


 涌井は安心したように胸を撫で下ろす。ほぼ同時に軽い息を吐く。


「ねえ、いきなりだけど。私と一緒に来て欲しい場所があるんだけど。ちょっといいかな? 」




「こっちだね」


 俺は涌井に誘導される形で背中を追いながら、3階(2年生の教室が設置されるフロア)の廊下を進む。


 涌井の背中を追っていると、普段は使わない3階のエリアに到着する。


「ここここ」


 涌井は誰も居ない教室の戸を優しく開ける。


 キシッと戸にヒビが入るような音が聞こえた。見た目から分かるように、この教室は、かなり年季の入った感じがした。


 涌井に後を追うように中に入ると、机は一昔前のように色が褪せていた。濃い茶色が薄くなったような机が列を作って並ぶ。


 黒板も何年も使われておらず、テカリが見えるように綺麗だった。チョークの痕など微塵も残っていなかった。


 唯一の時計のみは正常に動いていた。時間も狂っていたり遅れていたりもしていなかった。リズムを刻みながらと動いていた。


「やっと2人になれたね」


 涌井は振り返って俺に視線を向けると、嬉しそうに笑みを浮かべる。その表情は男子を惹きつける代物であり、改めて涌井が美少女であることを認識する。


「涌井さんはいいの。こんなパンツ一丁で女子更衣室に突撃する奴に声を掛けて一緒に居ても」


 周囲の反応が厳しすぎて、自己嫌悪に陥り、自身を卑下してしまう。それほど精神的には傷を負っていた。それに、クラスで変態扱いを受ける俺に接触するからには何からしの裏があると思った。


 俺を利用するような目的があるのではないかと邪推してしまう。ほぼ無意識に涌井を疑ってしまう。


「ねえ、我妻君って、あそこ大きいよね? びっくりするぐらいに。女子更衣室でパンツの姿を見て、ずっと頭から離れなかったんだ~」


「へ…」


 予想外の涌井の言葉に俺は素っ頓狂な声を口から漏らしてしまう。


 あそこが大きい? 俺のが? 何を言ってるんだ?


 俺の脳内に複数の?が浮かぶ。


「ねえねえ。もう1度パンツ越しから我妻君のあそこを見せてよ。お願い! 」


 涌井は両手を合わせて両目を瞑りながら懇願する。


「…」


 俺は驚きのあまり返す言葉が見つからない。無言を貫く。


「無言は肯定という意味かな? 」


 涌井は欲望を抑えられないように俺との距離をズンズン詰める。注目すると息が小刻みに乱れている。もしかして興奮しているのだろうか。


「ちょ、ちょっと。そろそろ授業始まりそうだから~」


 身の危険を感じた俺は、踵を返して空き教室の戸を強引に開け放ち、エスケイプする。


「ちょ、ちょっと!? 待ってよ! 我妻君~。まだ何もしてないんだから~〜」


 涌井は俺を必死に呼び止めようとする。


 俺は涌井の制止を背中に感じながらも、決して振り返らずに、駆け足で教室を目的地に設定して向かった。


 俺のあそこを求める涌井から逃げるために。

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