第17話

 逢坂の言葉、余りにも彼女らしくない言葉に、俺は度肝を抜かれる。

 声のトーンこそ穏やかだが、マジでそれだけに見える。

 委員長も困惑気に頬に手を当てる。


「あー、ゴメンね。折角遊んでたのに、お邪魔しちゃったかな……」


 様々な感情が湧いているのだろうが、一旦謝って大人の対応を見せる委員長。


「いえ、お気になさらないでください。この人のお知り合いとやらがどんな方か見たかっただけなので」


 だが、逢坂は変わらずの態度。

 普段から逢坂を見ている身とすると、なんだかいたたまれないような、そんな気持ちになってくる。


「ちょ、ちょっとスマン委員長!」


 俺は短く告げて、フィギュアを持った委員長を一人置いて、逢坂を奥まったところへと連れ出した。


 ♢


 俺は逢坂を連れて委員長の視線から逃れ、人気の少ないエリアへとやってきた。


「……どういうつもりだ」

「ふぇ?」


 俺が声を掛けると、逢坂は途端にハッと表情を変える。

 そして、気まずそうに目を逸らした。


「その、良かれと思って……」

「あれのどこが良かれだよ……」

「うう、ごめんなさい……」


 軽くガツンと言ってやろうかと思ったが、逢坂はかなりしゅんとしている、というかしょぼくれている。

 ……俺もこれ以上言うのは気が引けて、小さくため息をつくに留める。


「でも良かったよ、お前の正体がバレたりしなくて」

「え?」


 何を突然?と言いたげな逢坂。

 これは相当冷静さを失ってるみたいだな……。


「だってそうだろ、お前が変な喧嘩吹っ掛けて委員長が怒ってお前のフードでも取ってみろ」

「あっ……」


 何かに気づいた様子の逢坂、俺も鷹揚に頷く。


「お前は俺と違ってお忍びで来てるんだ、慎重に頼むぞ」


 俺は目を細め、あくまで厳しい口調で忠告する。

 流石に反省したか……と思い薄目で見ると、逢坂は何故かぽけーっと呆けていた。


「先輩……邪魔したこと怒んないんですか?」

「はぁ?何が邪魔だよ」

「いやだって……」


 その時、俺は一つ気の利いたセリフを思いつく。

 戸惑う逢坂に向かって、俺は洋画の様にニヒルな笑みを浮かべて、その台詞を口にする。


「強いていうなら、正体がバレて逢坂と格ゲーできなくなるのが、一番の邪魔かもな」

「先輩……」


 決まった、そう俺が確信するのもつかの間……一瞬顔を赤くしたと思った逢坂は、すっと無表情を形成した。


「先輩、カッコつけてるところ悪いですけどクサいです」

「何でだよ!」

「ええー、先輩そう言う事言えちゃうんですね。まあでもイメージ通りって言うか~」

「んだよ、文句言うなら言わなきゃよかった……」


 あまりに俺のセリフがひどかったのか、逢坂はフードをぎゅっと深くかぶり、完全に俺から顔を逸らす。


「まあいいです。とりあえず先輩が私の事ちょー大事なのは分かりましたから、さっさと委員長さんの所向かいましょう」


 そう告げて、逢坂は俺の返事も聞かずにさっさと向かって行ってしまった。






 ほっぽり出されたにもかかわらず、委員長はフィギュアを抱えたまま同じところで待ってくれていた。

 俺達が帰ってきたのをみて、ぱっと顔を明るくする。


「あ、やっと帰ってきたー」

「悪い委員長、待たせたな」


 短く告げ、俺は隣でもじもじしている逢坂を見下ろす。

 俺が軽く背中を叩いてやると、俯いていた逢坂は、意を決したように顔を上げた。


「その……変な態度取って、すみませんでした」

「え?」


 あっけに取られた顔をする委員長。

 しばらくして言いたい意味が分かったのか、はっとする。


「いやいや全然気にしないで!むしろこっちがお礼言う側だから!」

「そう、何ですか?」

「そうそう!私このアリにゃんのフィギュアに相当溶かしちゃってたから、まじ感謝してもし足りないんだよ!」

「あー、はい、どうも、です……」


 逢坂の手を握ってぶんぶんと振りそうな勢いの委員長に、逆に気圧され気味の逢坂。

 ずり落ちそうになるフードをぎゅっと押し下げて顔を見えないようにする。


 ……とりあえず大丈夫そうだし、後は俺が引き受けるか。


 軽く逢坂を制止て、俺が前に出る。


「にしても委員長って、実はオタクだったんだな」

「え」


 俺が指摘すると、委員長はピクリと体を強張らせる。

 そして、今更思い出したかのようにギギギと油の切れたロボットのような動きでこちらを向き直る。


「……えーっと、これ実は妹が好きで」

「いや、今更それは無理があるだろ」


 俺が指摘すると、委員長は色々考えた末に諦めたようにため息をついた。


「……いやまあ、元々あんなことしといて隠すつもりは無かったんだけどね」

「クラスの他の奴らには言ってないのか?」

「言ってるわけないじゃん……ってそうか、久我君友達いないから分かんないのか」

「おい、失礼だぞ。否定はしないが」

「否定しないんじゃん」


 ケラケラと笑う委員長。

 その目には以前のような嫌悪感のようなものは籠っていなかった。


「……久我君の言う通り、私隠れオタクしてるの」

「コミメで働いてるのも、そういうことか?」

「まあ、半分正解。こうやってグッズとか買うお小遣いが欲しくて、あそこ働きやすいし丁度いいかなって」


 しかしつらつらと話していたかと思うと、委員長は急に俯く。


「……いやぁ、それにしても恥ずかしいな」

「ん?何がだ?」

「久我君って良くも悪くも堂々としてるでしょ?私、クラスの人たちにもバレないようにコソコソオタクしてるから、何か恥ずかしいな、って……」


 フィギュアを握ったまま、恥ずかしそうに視線を落とす委員長。

 そんな彼女に、俺は言葉を投げかける。


「……いや、別にいいんじゃないか?」

「え?」

「人なんて二面性があって当たり前だ。俺はクラスで別の顔を作ることが出来ないからボッチしてるに過ぎない。寧ろ委員長の方が尊敬だ」

「そう、なのかな……?」


 はにかむ委員長。

 だが、俺としてはこの言葉は何も彼女だけに伝えたいメッセージでは無かった。


 俺の隣に立っているフード女子、逢坂妃花。

 学園では完璧な優等生を演じつつ、こっそり放課後は格ゲーにいそしむ彼女。

 彼女と同じ様子をしていたとしても、俺は同じように過ごせるとは思えない。

 だから、敬意をもって言葉を紡ぐ。


「それに、ちゃんと顔を使い分けるって事は、委員長な所も、オタクな所もちゃんと大事に抱えていたいんだろ?」

「っ……!」


 ハッとしたような委員長。

 再び俯いたかと思うと、彼女はゆっくりと深呼吸をした。


「……確かに、久我君の言う通りかもね」

「そうだろ?俺はこう見えて名言メイカーだからな」

「あはは、なにそれ聞いたこと無いんだけど」


 軽く笑ってから、委員長はゆっくりと顔を上げて満面の笑みを見せてくる。


「安心した、バレたのが久我君で良かったかも」

「だろ?なにせバラす相手もいないからな」

「そんな卑屈な意味じゃないよ」


 ニコニコと笑顔を浮かべる委員長。

 そこには今までのような警戒心や、オタクバレしたときのような緊張感も無く、ただただリラックスした表情で、俺はこの場が収まったことに、一人安堵するのであった。






 次回、逢坂妃花視点です!お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 19:00 予定は変更される可能性があります

ぼっちがゲーセンで無双していたら、なぜか学園のアイドルに懐かれてしまった 尾乃ミノリ @fuminated-4807

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画