第36話 一人の少女

リトたちが朝神殿を出るくらいの時。アースも島に到着していた。

「やっと島に着いたぁ!案外早かったですね」

「そうねぇ、番人さんもいなかったし、随分侵入しやすくなったわ」

「これからどうするんだ?確か遺跡の捜索、シロという人物の捜索、土地の調査をするのだったのですよね?」

「ああ、担当を決めて三グループに分かれるのが良いだろう。フギーは土地の調査を頼む。私は遺跡の調査へ向かう。他は希望があるなら好きにしてくれて構わん。」

「あ!俺は食料調達もしたいから調査班行ってもいいっすか?」

「あら、フギーちゃんとマーキュリーちゃん、二人で大丈夫かしら。不安だから私も調査班に行こうかしら?」

「ミラさん、そこまで信用ないですか。私たちのことは大丈夫なので、クレラゼの所にでも」

「僕は一人でいいよ。他人がいたら動きづらい。それにさぁ、土地勘ない癖に見えはるのやめたら、フギー。」

「なっ、」

「こほん、ミス・ミラ私たちと一緒に来てくれますか?」

「ふふ、レディの申し出を一回断ったところは解せないけれど、良いわよ。」

「では、滞在は三日間。睡眠時間を除き一時間に一回はその時いる場所を合わせて連絡せよ。また、何か事態が発生した場合、独断で行動しても良い。だが、後始末はきっちりと。それでは解散っ!」



唐突な質問に、一幕置いてから私は答えた。

「んーと、それはちょっと難しいんじゃないかな」

少し黙って様子を伺うとクロちゃんはまた話し出した。

「私には助けないといけない人がいるの。その子はきっと今も戦ってる!その子を助けるには世界を壊さなくちゃいけない。そしてそれには、あなたの力が必要なの」

少女の黒い真っ直ぐな瞳に私は吸い込まれそうになる。

「……なんで私なの?」

色々質問に答えたが、それが全てだとは思えない。初めて会った時、きっと彼女はもう決めていた。

「それは、今までずーーーっと誰か来るのを待ってたのに、だーーれも来ないんだよ。この機会を逃したらきっと今までと同じくらいの……ううんそれよりもっと長い時間人を待たなくちゃいけない。」

私は自分の震える手を見つめる。

(私はずっと待った。そして初めて手を差し出されて、それを握る。その感覚はあったかくて絶対に忘れない、忘れられない。)

考えた。彼女が嘘をついていることを、これは天使の囁きなのか悪魔の誘いなのか、世界を壊したとして彼女は心から笑えるのか、私にあの子を制御できるのか、私への被害も。だけどそれを全部足したとして、目の前に切実に助けをねだっている子供を無視するなんてできなかった。

「……私と一緒に行こうよ。」

私はいつの間にか手を差し出していた。震えていた手はそれをなくして、まるでお姫様を連れ出す王子様のような気分で。

「……いいの?」

少女が小さい声でつぶやく。

「取り敢えず一緒に行くだけ。世界を壊すとかそういうことは、話聞くだけだよ。それでもいいならこの手を………ってうわっ?!」

ぎゅっと。小さい腕で抱きしめられていた。

「初めてだよ。クロの話を聞いてくれて馬鹿にしないでくれたの。……ありがとう、お姉ちゃん。」

「うん。」

こうされると、昔のことを思い出す。


"俺と一緒に来るか"


そう言われたことを、あれはきっと私が感じることができた唯一の愛なのだと。


「それで、どうやってついてくるの?クロは人…というか実態のない概念みたいな存在なんでしょ?」

時間が経ち実際どうやって外に出るかを私たちは話し合っていた。

「そう。クロちゃんは概念なの。実は色々あってクロの体はね、存在しない物なの。だから実態に相応しい依代が必要なの。例えば今の依代はこれ」

クロはこの部屋にある大木を撫でる。

(あの木、ここに来た時にみた木だ。なくなったから見間違いかと思ってたけど、よく考えればあれがなくなってからクロが出て来たんだよね。)

「体探しだけなら簡単なんだけど、クロは普通より魂?みたいな物が半分ないから、それも補えるようなものじゃないとだめなんだ。」

私は木の観察をして見る。この木は魔力の密度はそれほど高くなさそうだが……。

「木に魔力が宿っている?!」

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