第35話 クロ
「ここはどこ?」
暫くふらふら歩いていたら、吹雪に襲われて目の前にある小屋に飛び込んだ。その小屋に入り散策していると、床の板が外れかかっていた。興味本位でその上でジャンプしてみると、板が壊れて、私は垂直落下した。なんとか無傷で地に足をつけることができたが、出口なんてあるはずもなく、私は謎の空間を、彷徨うことになった。足を前に出す度、何かにぶつかりそれが転がる。そんな不気味な音さえも無音よりもずっと落ち着く。進むと壁が前に現れた。行き止まりだと悟り、壁伝いにまた歩き始める。
(壁?いやこれは扉?)
ドアノブと思わしき所に手を掛け、迷わず扉を開く。扉が閉まるとふわふわと灯りが浮かぶ。視界が開けて来て一番最初に大きな木が目に入ったが、瞬きをしたらそれは姿を消していた。
(あれ、今目の前に大きな木があった気がしたけど)
「こっち……こっちよ……。」
後ろから声が聞こえて来て、振り向くと一人の少女が立っていた。
「やっと会えた!」
その少女は私を見るなり、満面の笑みを浮かべた。
「あなたは?」
「私はうーん………クロ!そうクロって呼んで!私ねここでずっっっっとあなたを待ってたの!」
「私を待ってた……。」
「うん!ねぇ御伽話って好き?クロはね、すっごい嫌い!あんな予定調和で都合の良い主観でしか物語を展開しない。読んでてね、心がモヤモヤってするの。あなたは?」
真っ直ぐな瞳を前に私は本心を話していた。
「私も嫌いかな」
主人公が幸せになる。じゃあその幸せはどこから生まれたのか。そこは一際語られず、忘れられて事実が捻じ曲げられる。一方の意見が押し付けられるのは気分が悪い。
「じゃあ次!嘘を吐くのは悪いことだと思う?クロはね嘘をついて怒られるの意味わかないなーって思うから、それも嫌い!」
「私は仕方のない嘘もあるんじゃないかなって思うよ。」
「うん、生きるためにつかないといけない嘘もあるもんね。」
「で、質問は終わり?」
「ううん、まだあるよ。次はね……人をまだ傷つけてない魔物と健全に人生を生きている少女、どちらか一つなくなるならどっちがいい?今回はあなたから答えて!」
「それは………」
私は迷わず答えた。その答えに驚くでもなくクロは彼女の意見を話し始めた。
「クロは女の子の方かな。この選択が出される状況はたくさん思いつくけど、女の子が高飛車になって自分という存在を過大評価するのは見ててムカつくな。」
「それは色々敵に回しそうな発言だね」
「お前は怒らないのか?」
「というか怒れない……かな」
そう言うとその瞬間だけクロが最初から放っていた威圧感が緩くなった。私の視線に気づくとすぐ元に戻る。
「やっぱりクロは運がいい!ここであなたを待ってたのも。間違いじゃないって思えるよ!クロね、あなたにお願いがあるの」
「お願い?」
「うん………この世界クロと一緒に壊さない?」
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