ってか、
ウラカミツヨシ
ってか、
ミステリー小説を書こうと決めた。
高校2年、秋。
私は、あいつらとはひと味違う青春と偉大なる栄光を手に入れるのだ。
ミステリー小説を書くと決心して、まずはじめにぶち当たる問題点は「トリックを何も思い付かない」というところだ。
私はとても困ったのでスマホで「ミステリー トリック 思いつき方」と検索してみる。
するとまず一番上に、恐らく最もアクセスを集めているであろう、おそらく人の手によるであろうサイトのリンクが表示されていて、二番目に「AIによる概要」なるものが表示されている。
私はページの一番上に表示された「人間の誰か」が書いたであろうリンクはサッとスルーして、「AIによる概要」の下に付いている「もっと見る」の表示をタップする。
ミステリーのトリックは、「読者の注意を意図的に誤った方向へ誘導する」ことで思いつきます。具体的には、読者が「どうやって?」と疑問に思うポイントと、実際のトリックの焦点をずらすこと。例えば、「密室にどうやって死体を持ち込んだか?」という疑問に対し、「そもそも密室ではなかった」という、時間軸のズレを突くといった方法で、読者の常識や予想を裏切る意外性を生み出すのがポイントです。
ミステリーのトリックってこんな風に簡潔にわかりやすく説明されてしまうと全然ミステリアスじゃないなーなんて思うけど、「ミステリー小説を書きたい!」と思い立った数十秒後に「夢へのガイドライン」的なものをこんなにお手軽に手に入れられるなんて有り難い限りなので、私はさらに「読者の注意 誘導する方法」と検索をかける。
インターネット最高。ってか、家で無料で楽しめる最高のツールじゃない!?
検索すると今度は「AIによる概要」がページの一番上に表示される。
人間の書いた記事ではなくAIの解説が一番上に来たのを見て私は「人類の敗北だな」と小さくつぶやき、芝居がかった自分の言い方にうわ、キモ。
そしてまた私は迷わず「もっと見る」をタップする。
読者の注意を誘導するには、視覚的なデザイン要素や心理的なアプローチを活用します。具体的には、大きなものから小さいものへ視線を誘導する法則を利用したり、写真の人物の視線の先に情報を配置したり、矢印やラインなどのデザイン要素を使います。また、** リード文**で本文を読むメリットを示したり、読者の好奇心を刺激する表現を用いたり、ツァイガルニク効果を利用した予告を入れるのも有効です。
「写真の〜」のあたりから内容が頭に入ってこなくなってきて、違う違うこんなんじゃない私はミステリー小説を書きたいんだから。トリックを考えなきゃいけないんだ。しかし、
「ツァイガルニク効果」。
うんうんこれはなんかカッコいいので小説のどこかで使ってやろうと思い、まっさらな大学ノートにメモっておく。偉大なるミステリー小説家の「ネタ帳」つまりは新品の大学ノート、そこにはじめて書いたワードは「ツァイガルニク効果」。奇才小説家の第一歩としては悪くないだろう。
で、そんで、トリックトリック。本質からズレてはならぬぞ私。トリックを考えるんだ。
。。。
トリックを思い付きそうにないので私は「トリックを考える人を探そう」と思った。
斉藤くんはどうだろうか。
斉藤くんはいつも難しそうな本を読んでいるし、こないだの模試でも九大(九州大学)にA判定が出たらしいし、お互い家も近いし、小中高とずっと学校一緒だし、小学校低学年の時は一緒に学校から帰ってたし、私にあの時水筒のお茶分けてくれたし、私もお返しにバレンタインとかあげたし、当時は親同士も仲良さげだったし、そのよしみで請け負ってくれないだろうか。
あーでも連絡先とか知らないわ、いや学校で聞けばいいじゃん。で、そんで、どうやって?わざわざ理系の教室を訪ねて行って廊下から呼び出して「ちょっと話があるんだけど」って、クラスメイトたちはざわざわ、好奇の目で私たちを見てきたりして、
「話ってなに?」
「あの、、久しぶ、、その、小説の、、トリックを、、考えて、欲しくて、、」
「なんだコイツ。おもしれーオンナ。」
みたいな神展開が、いやいやちょっと待ってその前に私学校行かなきゃじゃん。
学校に行かなくなっておよそ1年と2ヶ月。
ってか、単位やべー。ってか、やばくない?この「ってか」がどの部分にかかっているか説明できないけど、説明できなくても使いこなせているわけなので特に問題なし。
学校に行かなくなった理由は特にはなくて、強いて挙げるなら「めんどくさくなったから」かなー。なんて。
周りの人たちは「何か理由があるはずだ」と信じたいみたいだけど、ってか、不登校になるには何か特別で心理的な理由がないと安心できないご様子だから、自分の中で渦巻いている説明できないモヤモヤはいったん置いておいて暫定的に「やりたいことが見つかったから学校に行く意味がなくなった」とか説明しておくことにしたんだけど、「やりたいことってなによ」と母親。そりゃそうだ。「学校に通わない」と釣り合うくらいの「やりたいこと」を提示しないと納得できないというご態度なので「小説家になりたい」ということにして切り抜けた。かに思えたが、「何言ってんの。あんた本なんて読まないじゃない。」いやいやそんなことはない。私だって本くらいは読む。斎藤くんが読んでいた難しそうな本の表紙を思い出そうとする。ってか、私だって、本くらいは、読む。母の断定的な物言いに腹が立つ。「学校に通いながらでも小説家は目指せる」と母親、そして黙って見つめてくる担任。
マズい状況だ。このままだと防戦一方なので私は「とにかく黙る作戦」に方針を変更(現在も継続中)、しかし母親と担任はあの手この手で私から「不登校になる上での正当な理由」をカツアゲしてこようとする。おい担任、お前は私サイドであれよ。なんでこの分からず屋ババアの肩もってんだよ。生徒の心に寄り添うのが教師の務めってもんだろうがよこのババアども!
私はスマホで「不登校 理由 ランキング」と検索したくなるが、ババア2人から見張られているこの状況でそれは厳しいか、思いつけ思いつけコイツらが納得するようなそれらしい理由を、焦るほどに頭は働かなくなるし、そもそもうちの高校スマホ禁止じゃん、だりー。
誰にどう説明しても理解を得られないであろうという絶望と、そもそもこの気持ちを説明するだけの言葉を持ち合わせない自分、そして仮にそれを説明できたとて「全てがめんどくさくなり、楽をしたいから」と要約されてしまうだろうという絶望に、涙が溢れ出てくる。なんでなんで?ってか、私ヤバくない?私は涙が止まらなくなる。卑怯なやり方だと分かっちゃいるが止めようとすればするほど涙は溢れ出してくる。ちょっと待ってなにこれ意味わかんないんですけど。こうなったら絶対に小説家になって、そんでもって大成功をおさめなきゃなんですけど!?
トリックの件は一旦置いておいて、「小説家 有名 なり方」と検索。またも「AIによる概要」が一番上に出てきていい気味だ、ザマミロ人類。新人賞にうんたらかんたらと書いてある様子なので、読まずにサクッとページを閉じる。ザマミロAI、ご丁寧にお書きくださったオマエの解説なんて読んでやらねえんだからな。どんなに頑張っても都合のいい時しか読まれないなんて人類の大勝利だろこれ、ってか私、文字とか読むの好きじゃないんだよね、本とか読まないし。いやいや、ってか、家近いんだから直接頼みに行けば良いじゃん、学校行く必要ないじゃん、ラッキー。
私は1年2ヶ月ぶりにスェットから制服に着替え、10月って中間服なんだっけ?冬服?まあいいやどっちにも対応できるように冬服に決定、違ったらブレザー脱げばいいや。斉藤くんに会ったら第一声は「今ってまだ中間服だっけ?」かな。ハハ、おもしれーオンナ。玄関の姿見で最終チェック、うんうん悪くない。ってか、良くない!?え、ってか、斉藤くんって私がもうずっと学校に来てないって知ってる?それによって私の第一声の与える衝撃度変わってくるんですけど。
え、ってか、これ、転機ってやつじゃない?後々インタビューで「転機の日」として語り継がれる系のやつじゃない?
私はその時のために「不登校 復帰 きっかけ ランキング」と検索しようとスマホをブレザーのポケットから取り出そうとした。
けど、
まあ別に学校に行くわけじゃないし、そんな大袈裟なことでもないか。ってか、復帰する正当な理由調べるなんて、私だって不登校になる正当な理由は必要って思ってるってことになるじゃん。あぶね、調べたら負けじゃんね、私はババア達を含めた全人類に引導を渡すんだそうだそうだった。
私はドアノブに手を掛ける。
久しぶりに触ったドアノブはやけにひんやりと冷たくて、そっか、ってかもう秋なんだなーなんておセンチな気分になったりしてみる。うわ、キモ。
秋だからおセンチになったんじゃなくて、おセンチになってからその後に秋だと気づいたわけで、じゃあ一体、私のこのナーバスな気持ちは何に対してのナーバスなんだろう。
ってか、検索すれば分かるんじゃね?いやいや、流石に無理って分かるわ、ハイ人類の勝利。
私はふーっと息を吐き、そしてゆっくりと、ノブを握った右手に力をこめていく。
ってか、 ウラカミツヨシ @tsuyo_1212
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