第43話 精霊と美少女

「サジーことサッシャー・グレイスは、めでたく精霊になった!」

 仁王立ちで、胸を張る。

「おめでとう、サジー」

 ニコニコで、拍手してくれるヴァイオレットお義母さん。

「息が楽に吸えるようになったんじゃない? 唇が青紫色なのに、あんな激しい踊りするから……」

 眉を寄せて、サジーの前髪をすくう。

「あれ、本当だ。息を吸う度に、魔力が満ちていく……」

 そして、とんでもない勢いで、魔力が抜けていく。しん君が回復するために、流れていっているのか。

やれ、ちびっこよ」

 神様に手招きされる。

「おお……。薄ぼんやりとだけど、身体の輪郭が見えるようになった。精霊パワーすごい!」

 皆で、泉を覗き込む。

「うちの人が、シンを迎えに来てくれたみたい」

「うちの人……。あ、進君のお父さんか」

 空いていた高級宿に運び込まれて、ベッドに寝かされている。進君のお父さんが、必死に引き離そうとするけど進君はサジーから離れない。

『何だ、この馬鹿力は……』

 お義父さんも、困っている。ベッドに腰を下ろして、進君に触れる。

『この子が、シンのつがいなのか……』

 顔をしかめ、窓の方を見る。目元をこする。サジーは、ヴァイオレットお義母さんを見た。困ったように、目を細める。

『私は闇魔法しか使えないから、君たちを救えないんだよ……』

 残念そうに言う。大丈夫、サジーは精霊になったから。眠る身体を動かそうとするも、指一本動かない。

『背に腹は代えられない。あいつに頼むか……』

 決死の覚悟で、出て行くお義父さん。

「あいつ……?」

 ヴァイオレットお義母さんを見上げる。頬をかきながら、えへへと苦笑する。

「ジルベール先輩も大人になったね」

「結婚したのに、先輩呼び! 萌える!」

 萌え? 困惑するヴァイオレットお義母さん。

「ルナも人間の子になったよ、サジー!」

「へえ~、そう……」

 振り返る。金髪美少女。フリフリとか、リボンとか超似合う。瞠目する。

「ルナと同じ耳……」

「そうだよ。だって、ルナはルナだもん!」

 キラキラが半端ない。

「くっ……。これが、サジーにはない清らかさ……」

「サジーは良い子だよ?」

 ルナが首を傾げると、さらりと金髪が揺れる。

「あ……。後で、半ズボン履いてくれる?」

 性癖を隠さないサジー。

「いいよー。お揃いのお洋服も着ようね♪」

「お揃い。えへへ……」

 お互いに手を取り、くるくる回ったり、踊ったりする。

「さあさ、二人とも座って」

 木製のベンチに並んで腰掛ける。ヴァイオレットお義母さんは、黒い椅子に座り、脚を組んだ上に手を乗せた。

「シンやジルベール先輩の闇魔法は、簡単に言うと奪う力です」

 うんうん。

「一方、精霊は世界と繋がっている。例えば、空気や水は皆で分け合っているでしょう。精霊になると言うことは、その仲間に入れてもらうということです」

「なるほど、理解しました」

 そして、サジーと進君はつがいである。魔力の融通が利く。

 ああ、これは思った以上に大変なことになったのではなかろうか。口元をひくつかせながら言う。

「何でしょう。我々はこれから世界征服でもするつもりなのでしょうか?」

 ヴァイオレットお義母さんの顔がサーッと青ざめる。

「シンに与える魔力は、上限を設けましょう!」

「それが良かろうな……」

 話は決まった。





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神在月に、神様と契約する 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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