天秤~過去と未来のパラドックス~

雪雷ペンギン-Meek-

過去と未来を天秤にかける

俺、浅野伊織は転生した。100年前の人物、

【天野伊織】へと。



この、【天野伊織】という人物は東暦5110年~5180年の間約70年間続き、死者を推定すると当時の世界人口の4分の3である300億人、557あった国のうち214ヵ国が滅んだ第七次世界大戦という戦争の際、日本共和国という島国の首相補佐という二番目に偉い地位にいた人物で、未来ではよく「第七次世界大戦を止めることができたかもしれない唯一の人物」として語られる。



俺はそんな人物に転生してしまった。




なぜ【天野伊織】は第七次世界大戦を止めることができたかもしれない唯一の人物として語られるのか。それは、この戦争を始めたのが日本共和国の首相、【島内恭介】という人物だったからだ。



5110年、日本共和国という国は世界で突出した武力と科学力を持っていた。それにより、この国の人の平均寿命は170年もあったそうだ。



そして、選挙によって首相を決め、その首相の方針に従うという政策を取っていた。一度首相になった人物は辞任するか死ぬまで首相を務めることになっていた。



そして、5110年、科学の最先端にいた【サイエンスバースト】という企業の社長【島内恭介】という人物は、首相になると、【サイエンスバースト】が超多額の費用をかけ作り出した洗脳機械を使って全国民に洗脳をかけ、戦争を始めたのだ。



その時、唯一洗脳をかけられていない人物がこの【天野伊織】だと言われている。



【天野伊織】は最も【島内恭介】に信頼されていて、仮に自分が死んだとしても戦争を続けられるようにと洗脳機械の使い方まで教授されていたという。


また、その通りに転生した【天野伊織】の記憶にも洗脳機械を使う方法がある。勿論、解除の方法もだ。そして今は5110年、日本共和国が他の全ての国に向け宣戦布告をする前日の9月23日だ。つまり、今洗脳機械を解除すれば、戦争は起こらない。



しかし、それで300億人の人が生きていた場合、間違いなく【時間矛盾タイムパラドックス】が起こる。



俺がいた未来の国、キューバル公国ではこの【時間矛盾タイムパラドックス】も研究されており、そこには、「大きく過去を変えた場合、今ある未来はなくなるが、それによって過去を変えた人物が消えても、過去を変えたことも無くなることはない」という考察がある。これを信じるとするのならば、俺は300億人を救うことができる。



しかし、【時間矛盾タイムパラドックス】によって俺の親や友人、自分自身も消える可能性が大きくある。というかほぼ間違いなく消えるだろう。



俺はどちらを取るべきなのだろうか。



第七次世界大戦を止めて300億人を助ける。この場合、自分がいた未来はなくなる。


第七次世界大戦を止めず、300億人を見殺しにする。この場合、また自分がいた未来は生まれる。



俺の目の前には洗脳機械がある。コードを赤→黒→緑→青→白→紫の順に切れば洗脳機械を止められる。




俺は、過去と未来を天秤にかける。





何分かも分からないほど悩んだ末に、俺はコードを順に切った。洗脳が解けて洗脳されていたことに気付いたのだろう。外が騒がしくなっている。



俺は、300億人を救い、自分がいる未来を消すことを選んだ。



「こんなんだからお人好しって言われるんだよ」と親友の声が聞こえた気がした。




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5280年。戦争が起こらなかった世界線でのキューバル公国で授業を受けている学生がいた。


「5110年、日本共和国で洗脳を止め、戦争が起こるのを未然に防いだ英雄の名を何という?おまえ、答えてみろ。」



「【天野伊織】です。」




「正解だ。この人がテストに出ないことはないからしっかり覚えておけよー。」



その学生の名は、【浅野伊織】といった。

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