世界は俺を英雄とは認めたくないようです
犬好杉夫
第1話 英雄譚の始まり
幼い頃からの夢だった
物語の中の英雄になる。そのためなら、何だってやってのけた
修行と称し、何度モンスターに素手で正面から突っ込んだか、何度自ら崖に飛び込んだか
初めこそはバカな真似をするなと叱られたものだが、しだいに俺は村の人間からは気味の悪い子供だと白い目で見られるようになっていった
だが、正直周りの人間の目などどうでも良かった。『いつか俺が英雄になった時助けてやらないぞ』なんて言いまわるほどであったくらいに
まあ、今になって思えば周りからの目も当然だったし、たまに思い出しては頭を抱えたくなる程度には黒歴史と化していた
だがあの頃の狂気じみた修行?の甲斐あって、今ではそこそこの力を持つに至っている。
...そう、『そこそこ』だ。あの頃思い描いた英雄にはなれず、地方の冒険者パーティーのリーダーとして生計をたてている。
いつだったか、若かった俺に剣の師である老人に言われたことを思い出す。
『人生は、挫折と妥協の上で作られている。どれだけ熱い気持ちを持とうが、理想の姿になれるのはほんのごく一握りだ。諦めろとは言わない。ただ、『理想と現実の違いに折れてしまう時』というのは誰にでも訪れる。それを心に止めておけ』
あの時は一蹴したが、今ならよくわかる。そうだな、俺は結局英雄になんかなれなかった。物語はあくまで物語。そんなこと、今時ガキだってわかってることだろうに、こんな歳になるまで気づかなかったなんてな...
『..スト...起き...いつまで寝て....』
...誰だよ、人が感傷に浸ってるってのに、空気読めって
「起きろルストォォォ!!」
次の瞬間、腹を思いっきり殴られたのか鈍い痛みが腹に響く。覚醒しかけていた意識が一気に現実へと引き戻される。
痛みで少し涙目になりながら、眼前の腹パンの犯人を見据える。
「いつまで寝てんだ!今日は近くのダンジョンに潜る予定だったろうが、さっさと支度しねえともう一発入れるからな!」
粗暴な口調で捲し立てるのは俺のパーティー【夜闇の剣】のメンバー、リズだ。彼女は近接戦が得意な『拳士』であり、主にガントレットを用いた攻撃を行なっている。
そう、彼女は「拳」士なのだ。拳による攻撃を得意とする彼女の腹パンなど、起き抜けに二発も喰らおうものなら死ぬ自信しかない。
「...すんません、急いで準備します」
「へっ、わかりゃいいんだよ」
「飯は下に置いてあるからな」と言い残し、彼女は部屋を出た。俺も、まだ少し痛む腹を抑えつつ階段を下っていった。
「あら、ルストさん。おはようございます。今日はついにダンジョン攻略ですね」
「そうだなルージュ、俺もさっさと飯済ませて支度するよ」
「ダメですよルストさん、ご飯は一口一口感謝を込めて頂かなくては。ご飯粒一つとっても、神様からの祝福が込められているのですからね」
そう俺を嗜めるシスター服の少女は、ヒーラー役を勤めるルージュ。彼女は世界最大の宗教「光神教」の信徒であり、「万物は神の祝福が込められている」と言う教えのもと、何に対しても優しさを振り撒くパーティーの母親のような存在としてメンバーを支えてくれている。
「ルージュは準備いいのか?見たところ手ぶらみたいだが」
「アレクスさんに預けているので大丈夫ですよ。彼女の収納魔法には助かりっぱなしです。」
「ああ、あいつにはほんと苦労をかける。魔法全般を扱える奴がうちにはあいつ一人だからな。いつかちゃんとした礼をしてやらないと」
「彼女でしたら、ルストさんにお褒めいただければそれで喜んでくださると思いますが...」
「あいつが?いやいや、あいつのことだし『礼の言葉なんかより調合材料を寄越したまえ』て言うぜきっと」
「....」
「あ、あれ?」
ルージュが「ダメだこいつ」みたいな目で俺を見てくる。なにか気に障ってしまっただろうか、お詫びとして今度お菓子の一つでも奢ってあげようか
そうこうしていると、背後に薄暗い気配が近づいてくるのを感じた。重く暗い、それでいて懐かしい慣れ親しんだ気配だ
「おはようアレクス」
「...やあ、おはようルスト、それにルージュ。今日はいよいよダンジョンだね。魔物素材には大いに期待できそうだ」
クククと不気味な笑う彼女は俺の幼馴染でありパーティーの魔法使い担当であるアレクス。収納魔法をはじめ多種多様な魔法を扱えるパーティーには欠かせない人材だ。その上彼女は日々魔法についての研究に没頭し、便利な魔道具を作り続けている。
「おや、こんな時間か。少し急いだほうがいいかもしれないね」
そう言ったアレクスの視線を追うと時計の針は出発予定時間を目前に控えていた。
「て、呑気に話してる場合じゃねえ!早くしねえとまたリズに一発入れられちまう!」
俺は急いで皿に盛られたパンとスープをかきこむ。何やらルージュの声がしたような気がするが気にしている暇さえ残されてはいない。続けて未だもそもそとパンを齧るアレクスの口にパンをねじ込み手を引いて外へ走った。アレクスもモゴモゴ何か言っているようだがそんな暇は(以下略)
そうして時間ぴったりに集合場所へと到着したのだが
「遅いわ!」
と軽めのジャブをくらい、再び涙目になりながら俺たち【夜闇の剣】はダンジョンへと足を運ぶのだった
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タイトル変えた
世界は俺を英雄とは認めたくないようです 犬好杉夫 @maruti-zu
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