嘘つきな友達

笹椰かな

本文

 旧友である更紗さらさは嘘つきだった。


『ニボシってね、ニボって魚の死体だから、ニボと死を合わせてニボシって名前なんだよ』

『ニンジンは漢字で書くと人に参で人参でしょ? だから昔はニンジンを数える時、一人、二人って数えたんだって』

『カラスはね、昔はピーピーって鳴いてたんだけど、人間が出したゴミを漁って食べ始めたら遺伝子がおかしくなっちゃって、今みたいにカーカー鳴くようになったんだって』


 今、思えばくだらない嘘の数々。だけど、疑うことを知らない純粋な小学年生だったわたしは、どれも本当のことではないのだと気付かなかった。それどころか彼女の嘘を、いつも感心しながら聞いてしまっていた。


 彼女から聞いた話が嘘だと気が付くのは、いつも学校から家に帰って晩御飯を食べた後だった。


 気付く流れはこうだ。わたしの宿題を手伝って――もとい監督して――くれていた八つ上の姉に、「今日、友達からこんな話を聞いたよ」と話す。すると姉から、「それは嘘だよ」と指摘が入るという訳だ。


 翌日。小学校に行って更紗から聞いた話が真実ではなかったことを指摘すると、彼女はいつも「ごめんなさい」と謝るばかりだった。


「嘘だとは知らなかったの」


 そう付け足して、申し訳なさそうに頭を下げる。

 そんなふうに謝られると強くは責められなくて、わたしはその度に彼女を許していた。


 けれど、小学校を卒業した日。更紗がわたしに告げてきたのだ。あの数々の嘘はわざとついたものだったと――。

 それが原因でわたし達は仲違いし、そこから縁が切れてしまった。

 更紗はわたしや他の子たちとは違い、地元の公立中学校ではなく、遠くにある私立中学校に進学したため、小学校卒業後は自然と会う機会もなくなった。

 正直、ほっとした。顔を合わせたくなかったから。




 高校を卒業して二年。卒業後に就職した町工場で働き、慌ただしい毎日を過ごしている今。

 時々、ふと思い返してしまう。更紗はどうして、わたしに毎日のように嘘を話していたのだろうかと。

 姉は「自分がついた嘘を感心しながら聞いてくれるみーちゃんの様子を見ながら、内心馬鹿にしていたんだよ。また騙されてるーって」と言っていたけれど、本当にそうだったんだろうか?

 だってそうだとしたら、わたしが熱心に作り話を聞いている姿を見ながら、どうして更紗は頬を赤くしながら照れていたんだろう。

 どうしてあんなふうに、恋をしている乙女のように――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

嘘つきな友達 笹椰かな @sasayakana456

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ