趣味探し① 家族観察編(後編)
三人が立ち去った後、入れ替わるように誰かが帰ってきた。
「今帰ったぞ。む、望か! よく来たな。ゆっくりしていくといい」
釣り竿が入っているロッドケースとクーラーボックスを肩にかけたおじいちゃんが、扉を開けてやってくる。
釣果はそこそこといった顔色だったが、望くんを見るや否や大漁だった時と同じくらい明るい表情と変化した。
「俊三さんお邪魔してます。今日はいいの釣れましたか?」
「ぼちぼちだな。刺身にでもしようと思っていたが、望も食べていくといい」
「え、いいんですか!? じゃあ手伝わせていただきます」
「うむ、遠慮はいらんぞ。フフフ……儂、頑張って捌いちゃうぞ」
うちのおじいちゃんは、他の家族と違って表情の変化に乏しい方だ。
けれど、今は望くんと一緒に居られてとても嬉しそうな顔になっていて微笑ましい。
よし、おじいちゃんのもちゃんと書いておこう。
◆No.4
・私の祖父。ちょっと不器用だけどすごく優しい。
・趣味:釣り。
・二級小型船舶免許を持っていて沖釣りにも行く。魚料理がすごく美味しい!
・他人に対しては不愛想で硬いイメージが持たれやすい。自分の感情を他人に見せるのは気恥ずかしいとのこと。
・実は押しに弱く騙されやすい。ちなみにおばあちゃんに一番騙されてきたらしい。
・パパのことはあまり気に入っていないけど、望くんのことは本物の孫のように可愛がってる。
・私に声を掛けず、勝手に望くんと二人きりで動物園デートに行ったのは根に持っている。
いい感じに家族観察帳が埋まってきて、むふーっと自分の鼻息を鳴らす。
私も望くんとおじいちゃんの料理を手伝いに行こうとしたその時、
「――じい様の手伝いをしとるのかえ? 先生は偉いのう」
「うわっ! 幸子さん!? びっくりした……」
いつの間に帰ってきていたおばあちゃんが、背後から望くんに抱き着いて彼を驚かせていた。
相変わらず望くんと距離が近いことに、「ズモモモモ……」と黒いオーラが私の背中から噴き出ている感覚がする。
「幸子さん、危ないので引っ付かないでください!」
「そう寂しいこと言わんでくりゃえ。あたしに抱き着かれるのは嫌かえ?」
「はい。料理中は危ないので嫌です」
「ちぇーっ。新婚夫婦シチュで篭絡しようと思うたが無理じゃったか。ならあたしも料理を手伝う。疾く終わらせようぞ」
「俊三さんが横にいるのに俺を堕とそうとしないでください。ほら、俊三さんが魚に語り始めちゃってますよ」
三人でキッチンに並んでいる姿から、手帳に視線を落として書き記し始めた。
◆No.5 青天目
・私の祖母。今一番警戒すべき身内。
・趣味:小説執筆。
・容姿が髪色と髪型以外、私と瓜二つ。若々しさの秘訣は曾祖母から口止めされてるらしい。
・とにかく甘いのが好き。甘味然り、ラブコメ然り。
・神出鬼没で、場を荒らすだけ荒して去る嵐のような人物。
・黒のウィッグを被り、私の制服を着た状態で望くんに会おうとした時は、さすがに軽蔑した。
・小説執筆のための取材といって望くんを連れまわさないでほしい。私の趣味仲間なのに……。
やっぱりおばあちゃんは要注意人物だ。特に望くんが関わると、何をしでかすかわからないし。
ペンを完走させて顔を上げると、視界の隅で小さい何かが動いた。
魚の匂いに釣られたのか、てちてちと足音を鳴らしながら帰ってきていたらしい。
『にゃー』
「あ、セリちゃん」
外から帰ってきた猫のセリちゃんは、キッチンにいる望くんの足に体を摺り寄せて甘い声で鳴いている。
望くんは、先ほどのおばあちゃんの抱擁とは打って変わって、優しい笑みを浮かべてセリちゃんを抱き上げた。
それを見たおばあちゃんは、大きく口を開けてショックを受けている様子だ。
『にゃうにゃぁあ』
「ん、魚が欲しい? それは俺じゃなくて俊三さんに言うべきだと思うけど」
『んにゃ~~』
「はいはい、くれないなら構えってことね」
なぜか会話が成立している望くんとセリちゃんを唖然としながら眺め、ペン走らせる。
◆No.6 セリヌンティウス(セリちゃん)
・私の飼い猫。大切な家族。
・趣味:散歩・昼寝
・脱走の名人。どうやっても彼女を閉じ込めるのは不可能。
・最近のお気に入り昼寝スポットは望くんの膝か頭の上。
・愛情表現する時は足に体を擦りつける。
・好物はツナ。
当たり屋セリちゃんに絡まれた望くんは、料理を中断してこちらに向かってきた。
あの状態では、まともに料理もさせてもらえなさそうだったしね……。
そんなセリちゃんと戯れている望くんを見て、私の手は勝手に動き始める。
もう自分以外の家族は書き終えているけれど、止まらなかった。
◆No.7
・私の趣味友達。未来への望みを分けてくれた恩人。
・趣味:森羅万象。
・とにかく面白いことが好きらしい。
・なんでもできるすごい人。けど唯一、絶対できないことはじゃんけんらしい。
・運動神経抜群で成績もよい。面倒見がいいし、誰とでも仲良くなれる。
・時折、私たち家族を眺めながらすごく羨ましそうな顔をする時がある。
・心の奥底に〝ナニカ〟を隠している気がする。
「よし、書けた!」
つい手が動いて望くんの分まで書き、満足してその手帳をパタンと閉じる。
ふと、表紙に書かれた「家族観察帳」という文字が視界に入り、脳内でロードが始まった。
(……あれ? これじゃ「望くんも家族です」って書いてるみたいなものでは!? いや、確かに最近うちに馴染み過ぎてるけども!!)
かーっと顔が熱くなった感覚がする。
そのページだけ破ろうと手をかけたが、そのタイミングで望くんがこちらにやってきた。
「千奈さん、人間観察もとい家族観察できた?」
「ひゃいっ! で、できたよ!?」
反射で手帳を閉じて、そのページを破り損ねる。
「おお! よかったら俺にも見せてくれないか?」
「だ、ダメだよっ! 恥ずかしい!!」
「え、さいですか……」
望くんはしょんぼりした様子で、床に転がるセリちゃんのお腹を揉みしだき始めた。
この手帳は……うん、あの引き出しの中に隠しておこう。
私はこれをポケットに入れ、望くんと同じようにセリちゃんを揉みしだいた。
――結局その後、ポケットから出し忘れて洗濯の時にママに見つかり、いつも以上にニマニマされるのであった……。
難攻不落のS級美少女の家族全員を堕としてしまい、彼女の外堀を埋めまくっていた 海夏世もみじ @Fut1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。難攻不落のS級美少女の家族全員を堕としてしまい、彼女の外堀を埋めまくっていたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます