I'll be none

I'll be none

I'll be none　吉田隼人

n+1では神に近付くことはできても神そのものを受け容れられない。聖なるもの、超越的なものを知ることはできてもそのものを生きることはできない。巫（ふ）の領域。恐らくn-1に達したとき神を受け止められる。超越的なものは何もない。もはやあらゆるものから生命が奪われているが、それは死ではない。負（ふ）の領域。

軍馬死して袖うちはらふ陰よりも闇を濃くして雪か漿液

黒点に擬せられ鴉　いづれ死ぬあはれな禽（とり）に過ぎぬがゆゑの

こころにも羽根なからむか智歯痛む二十（はたち）を過ぎて海に月入る

一身に花弁と怒り浴びゐたり黝（あをぐろ）き翳ふいに襲ひて

ゆふされば櫻もあをく（幻影の人）とゆきあふ古代の春か

前つ世に契りてけりな蝶蝶の翅ちぎれつつなほもまつはる

玻璃に罅、墓畔過ぐれば碧き海　糸にほぐれて繭はかなしも

亡霊（ゴースト）らあめかんむりの行軍をびやうきのひととして臥して見つ

果たしえぬちぎりの蜜のかくあまく乳房ふさふさ白桃みのる

さきの世のらぴすらずりのそらいろのひとしづくもて白紙にうたふ