婚約破棄されたけど、それよりも池の水ぜんぶ抜きが気になってしょうがない

間咲正樹

婚約破棄されたけど、それよりも池の水ぜんぶ抜きが気になってしょうがない

「テレジア、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」

「――!」


 麗らかな春の陽が差す庭園での茶会の席。

 そこで私は婚約者であるウェンゼル第一王子から、およそ信じ難い言葉を突き付けられた。

 こ、婚約破棄!?

 待って待って!

 今婚約破棄って仰ったんですかウェンゼル様!?

 そ ん な バ カ な。

 私はあなた様の妻になるため、毎日8時間しか寝ないで花嫁修業に励んでいるというのに!?


「……り、理由をお聞かせ願えますか、ウェンゼル様」

「ああ、言ってやるとも。そもそも君は――」

「おーい、あっちで池の水ぜんぶ抜きやってるぜ」

「っ!!!」


 池の水ぜんぶ抜きッ!!!?

 えー、待って待って!!

 私その企画、大大大好きなのよねッ!!!!

 あの段々と池の底が露わになっていく高揚感。

 人間対外来魚の、血で血を洗う熾烈な死闘!

 目の前で見れる機会なんて滅多にないわ!

 これは是非、見に行かなくちゃッ!


「――オイ。オイってば! 聞いているのかテレジアッ!」

「え? あ! あー、ハイハイ、聞いてますとも、聞いてますとも」

「まったく、君はいつもそうやって――」


 ゴメンなさい!

 ホントは全然聞いてませんでしたッ!

 今の私は、池の水に夢中ですッッ!!

 ――い、いやいや、ダメよ、ダメダメ。

 今はそれどころじゃないでしょ?

 私は今、婚約破棄を言い渡されてるのよ?

 人生の岐路に立たされているのよ?

 シッカリしなさいテレジア!

 何としても、ウェンゼル様に婚約破棄を破棄していただかなくては!


「うわっ、池の底から、古びた金庫が出てきたぞ」

「――!!!」


 古 び た 金 庫。

 何その黄金コンボッ!!!

 池の水からの古びた金庫ッッ!!!!

 何という欲張りセット!!

 私、古びた金庫開ける企画やつも大大大大大好きなのよねッ!!

 あの、神妙な顔で金庫と向き合う鍵師の眼差し!

 そろそろか……?

 そろそろ開くのかという間際の緊張感……!

 そして、「……開きました」と、高揚を押し殺した声で報告する際の鍵師のやりきった表情!!!

 全てが一級品のエンターテイメントよッッ!!!!

 是非見たい!!

 是非ともこの目で、金庫が開く瞬間を見届けたいわッ!


「……う、うぅ」

「っ!?」


 その時、突然ウェンゼル様の美しい目尻が垂れ下がり、その碧い瞳から大粒の涙が溢れ出てきた。

 えーーーー!?!?!?

 どどどどど、どうなされたんですかウェンゼル様ーーー!?!?!?


「うぅ、うわああああああん!!!! テレジアアアアアア!!!!」

「っ!?!?」


 ウェンゼル様は子供みたいに泣きじゃくりながら、私に縋りついてきた。

 えええぇ……(困惑)。

 どういう状況なのこれ?

 なんで婚約破棄した側のウェンゼル様が、私に泣きついてるの……?


「う、嘘だよおお!!! 僕が君との婚約を破棄する訳ないじゃないかああああ!!!!」

「へあっ!?」


 嘘ッ!?!?

 つまり、ドッキリだったってことですか!?!?

 ……なんでまた、そんな洒落にならない嘘を。


「僕は君以外、何も目につかないくらい君が好きなのに……。君はいつも他のことに目移りして、全然僕の話を聞いてくれないからああああ」

「……ウェンゼル様」


 だから私の目を無理矢理自分に向けさせるために、あんな嘘を?

 ……まったく、しょうがない方ですね。

 あなたは王太子として、いずれこの国を一身に背負うお方なんですよ?

 それなのに、子供の頃からいつまで経っても甘えん坊なんですから。

 まあ、そんなところも可愛いんですけどね!


「オイ! 金庫の中から、宝の地図が出てきたってよ!」

「――!!!!」


 宝 の 地 図。


「ちょっ! ウェンゼル様、ごめんあそばせ!!」

「えっ!?」


 私はウェンゼル様を突き飛ばして、声のしたほうに駆け出した。

 FOOOOOOOOOO!!!!

 宝の地図FOOOOOOOOOO!!!!!!


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婚約破棄されたけど、それよりも池の水ぜんぶ抜きが気になってしょうがない 間咲正樹 @masaki69masaki

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