第29話 冒険者の心得

 進行方向だけを修正してもらい森に向かって歩くが、この辺りも結構獣の気配が濃い。

 狩りをするために案内してもらっているのではないので避けて通るが、ゴブリンの群れを見つけたので、サディアス達の稼ぎにする為に進路を変る事にした。


 「サディアスさん、ゴブリンの群れを見つけたのでちょっと寄り道をしますね」


 「何処に居るのですか?」


 「ちょい右手です。静かについてきて下さい」


 数は7、8匹かな、何かを探して彷徨いているようで真っ直ぐ進んでいない。

 全周警戒異常なし! ちょいと揶揄ってぶん回してから、彼らに止めを刺してもらうことにする。


 「ここで待っていて、合図をしたら止めを刺してください」


 皆を待たせて物陰から出ると、俺を見たゴブリン達が喜び勇んで突撃してくるが残念でした。

 無色透明なドームにぶち当たって戸惑っている隙に、後ろの奴から〔つむじ風!〕でブンブン回してからサディアス達に合図を送る。


 「やっぱり不思議だよな」

 「風魔法でくるくる回すのは判るけどさ、なんで見えない物で防げるんだろう」

 「でも優れた魔法使いに違いないと思うわ」

 「待たせちゃ悪いので行くぞ!」


 「目を回しているって言うよりも座り込んでぐらぐらと揺れているだけよ」

 「ゲロを吐いている奴や小便漏らしている奴もいるが、こんなに楽な討伐は初めてだよ」

 「さっさと片づけようぜ」


 * * * * * * *


 「また見つけたようよ」

 「本当にどうなってんのかねぇ」

 「もっと真面目に索敵の練習をしなきゃ」

 「気配察知もだぞ。索敵に気配察知を組み合わせて使っていると言っていたからな」


 「それに見ろよ。草叢に隠れている奴はスリングで石を投げこんで追い出したらあれだ!」

 「飛んでいる鳥をつむじ風で捕まえるなんて、よく考えつくよな」

 「レジーナ、風魔法であれだ。魔法が使えるようになったら、どう使えば有効かよく考えろよ」

 「判っているけど、取り敢えず魔力を探さなきゃ」


 やはり森との境付近に来ると鳥さんが多くなるが、長居は出来ないので周辺で狩りをしたら街に戻るように指示する。

 この調子だと一週間程度で街の周囲を一周しそうだし鳥さんもたっぷり溜まりそうだ。


 少し早めに街に戻り銀貨六枚を渡すと、朝と同じように待ち合わせの場所を示して別れる。

 少しずつ待ち合わせの場所を変えながら合流しては、周辺の地形を覚えながら狩りを続け、その間にレジーナには魔力溜まりを感知するのは時間が掛かることを伝えておく。


 * * * * * * *


 俺は地形を覚えて適当に獲物が溜まれば、狩り尽くす前に王都方面に向けて移動するつもりだ。

 なので魔力溜りを見つけたらと、母さんに教わった魔力操作の事や魔力を送り出す要領を教え、質問には有る程度だが答えておく。


 魔法を使うための詠唱は、水をどう使いたいのかを簡潔に言うことと教え、俺のつむじ風を口に出してやってみせる。

 獲物を指定して「つむじ風で包み込め」と口にし、鳥さん捕まえて見せる。

 これだけで魔法は発現するし、それ以外ではつむじ風としか詠唱してないないと見せかけていると言うと、疑わずに頷いている。


 極めつけに、水魔法の代わりにウォーターで水球を作って見せる。

 ゴルフボールより少し大きな水球をレジーナの前に浮かべて見せ、それを握ってにぎにぎして見せる。

 序でボールのように地面に叩きつけて弾ませ、最後に立木に向かって投げつけると〈ピシャリ〉と音を立てて立木に張り付いた。


 生活魔法のウォーターでも考え方一つでここまで出来るので、魔力溜りを見つける、魔力操作の練習をしている間も水魔法で何が出来るのかを考えるようにと言っておく。


 * * * * * * *


 五日目の朝待ち合わせの時に、サディアスから俺を探している奴がいるらしいと教えられた。

 以前俺とサディアス達が一緒に解体場に行き。獲物を譲って貰ったのを見ていた解体係から、俺の居場所を知らないかと問われたらしい。

 その時に解体係が、お大尽がチキチキバードを欲しがっているのだが、俺が姿を現さないので物が無いと、使いの者に伝えたとの事だと。

 こりゃーギルドに顔を出さずに次の街に行こうと決めて、今日一日で約束は終わりにしようと考えていたが、明らかに冒険者とは違う雰囲気の男達がやって来る。


 サディアスが俺の見つめる先を見て「レオンの知り合いか?」と聞かれた。

 街の近くでサディアス達と話ていて警戒が疎かになっていたが、男達の様子からサディアス達の後をつけてきたようだ。


 「招かざる客のようだが、余り良い雰囲気じゃなさそうだな」


 「着ている物は上物だぞ」

 「お大尽の使いかもな」


 「兄さんが、そよ風のレオンって呼ばれている奴か?」


 サディアス達を押しのけて俺の前に立ち、問いかけてくる。


 「確かにレオンは自分ですが、何の御用でしょうか」


 「ウォーレンス様が、チキチキバードを10羽ばかり欲しいと仰せだ、持っているのなら寄越せ!」


 「ああ、チキチキバードのご依頼ですか。残念ですが、そちらの方達に草原の案内をお願いしていて狩りはしていないんですよ」


 「あぁーん、この間ギルドに、大量のチキチキバードを売っただろうが」


 「あれはロクサーヌからこのコルシェに来る間に狩った物を売っただけですよ。周囲の地形も知らずに狩りに出ても無駄足なので、彼らから周囲の案内をして貰っている最中です。チキチキバードがご入用でしたら、ギルドに依頼を出しておいて下さい。あと2、3日すれば狩りを始めるつもりですから」


 「なら今日から狩りを始めろ!」


 「無茶言わないで下さいよ、彼らを一日銀貨6枚で雇っているのですから。俺が地形を覚えなければ狩りなんて出来ないのが判りませんか。それに冒険者に依頼するのなら、買い取りの値段くらい示すものですよ」


 「お前、ウォーレンス様の使いの、俺達の頼みが聞けないってのか」


 いきなり踏み込んで来たと思ったら、横っ面に衝撃を受けた。


 「レ、レオン、俺達のことは良いので、ウォーレンス様のお使いの方の頼みを聞いてくれ」


 「おっ、兄さん話が判るな。それじゃお前達は消えな」


 犬か猫の仔を追い払うように、サディアス達を掌でシッシッとして追い払いやがった。

 人の横顔を気持ち良く殴りやがって、覚えていろよ。


 「判った、それじゃお気を付けて」


 サディアス達に可愛くバイバイと手を振るが、殴られた頬がこそばゆい。

 とっさに顔を引いたので音だけだが、テッド達に教わった冒険者の心得、其の一。

 冒険者は舐められたら終わり。必ず遣り返せ!


 心配そうに離れていくサディアス達だが、こんなヤクザな連中とは関わり合いたくないだろうな。

 俺だって、風魔法が使えなけりゃ御免なさいをして逃げ出すよ。

 冒険者の心得が頭に浮かんで離れないので、どうやってお礼をしようかな。


 「小僧、判っているだろうが・・・」


 「何をですか? 俺はこの街の住人じゃない、ウォーレスって何者なんだ?」


 「おっ、己はウォーレンス様を何者だと」


 驚く男の横っ面を三倍返しで殴ったが体格差は如何ともしがたく、俺の手が痛いだけだった。

 髭くらい剃れよ! まるでサンドペーパーを殴ったような感触だぞ。


 「ばーか♪」


 別れの言葉を残して草原の奥へ向かって軽く駆け出す。


 「おのれーぇぇ、追え! 逃がすなー」


 おーいい声だねぇ。遅れるなよ。


 「まてーぇぇぇ、クソガキが! 逃げられると思っているのか」

 「絶対に逃がすな!」

 「ガキの足だ、そうそう逃げられるかよ」


 便利な気配察知で追ってくる奴との距離を測りながら、もう少しで追いつくと思える間隔を保ちながら草原の奥へ向かって走る。

 索敵に人の気配はなく、危険な野獣も・・・ゴブリンかな。

 見通しの悪そうな所に逃げ込み、つまづいで倒れる。


 「クソガキが俺達から逃げられると思っているのか」

 「ウォーレンス様を侮辱した事を、後悔させてやるからな」

 「まてまて、その前にチキチキバードを献上させないとな。お前は鳥を捕る名人なんだってな・・・ん?」

 「どうしました兄貴」

 「いや、目の前に何か有るんだが?」

 「へっ」


 疲れ切った様子で倒れていたのだが、最後の男も追いついてきたので起き上がる。


 「ご苦労さん。良くも殴ってくれたな」


 「ほう、未だ意気がる根性は有るようだな」


 「なあ、ウォーレンスって誰だ? お前達の雇い主のようだが教えてくれないか。嫌なら言いたくなるようにするけど、人生初の経験をすることになるぞ」


 「つくづく口の減らないガキだな。ちと痛い目を見れば大人しくなるかな」


 話し合いは、話し合う気のある者の間でのみ有効って言葉がある。

 合意に達する見込みがない、話し合う気のない奴の相手は時間の無駄って言葉もある。

 そんな時には相手より下に降りて徹底的にやれ、が俺の信条だ。


 遅れてきた奴から〔つむじ風!〕でお回りしてもらう。

 三人目の奴が〈ヒェー〉何て悲鳴を上げたので、俺の前で斜に構えていた奴が振り返り動きが止まる。

 大の男三人がくるくると回っていればびっくりするよな。

 驚く男も〔つむじ風!〕で包み込みお回り!

 最後の一人は驚きすぎたのか、回る男を指差してお口パクパクしているだけなので、同じ体験をさせてやる。


 先に回した奴からつむじ風の魔力を抜いていくが、一人としてまともに立っいられずに這いずり回っている。

 マジックポーチからタープを張るロープを取りだし、後ろ手に縛り足も序でに縛っておく。

 余ったロープで首から首へと数珠繋ぎにしてから、お茶を飲んで回復を待つ。


 目が回ってまともに動けなくとも、縛られていることは理解出来るのか揺れる身体で睨んでくる。

 はっきりと回復させるために、頭からウォーターをぶっ掛けてやる。

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