第28話 精霊

 解体係が査定用紙を持ってきてくれたが、依頼がないと少し単価が安くなるのは仕方がない。


 レッドチキン 18羽×22,000=396,000ダーラ。

 グリンバード 15羽×27,000=405,000ダーラ。

 ランナーバード 9羽×38,000=342,000ダーラ。

 チキチキバード 11羽×63,000=693,000ダーラ。

 ビッグホーンボア 1頭、75,000ダーラ。

 エルク中型 1頭、51,000ダーラ。

 オーク 3頭×82,000=246,000ダーラ。

 総額2,208,000ダーラ。


 「不満か?」


 「侯爵様の依頼がなくなると、買い取りも値が下がるなと思っただけです」


 「ほう、何処で依頼を受けていたんだ?」


 「依頼は受けていませんが侯爵様が依頼を出していたので、解体係にチキチキバードを集めてくれと頼まれていたんです」


 そう言って、ロクサーヌでの支払い済みの査定用紙を見せた。

 チキチキバード、2羽×68,000=136,000ダーラ。

 ランナーバード、1羽、41,000ダーラ。

 グリンバード、1羽、30,000ダーラ。

 レッドチキン、2羽×25,000=50,000ダーラ。

 合計257,000ダーラ。


 「ロクサーヌで、チキチキバードを大量に持ち込んだのはお前か。これからも持ち込んでくれるのなら査定に色を付けてやるぞ」


 「止めとく」


 「何でだ。稼げる時に稼いでおけば良かろう」


 「ここのギルドは持ち込んだ物を申告しても信用しないし、出せと言われて出せば文句を言って怒鳴りつけてくるのでね。まっ査定に文句はないので売ります。それに一ヶ所で狩り尽くせば、他の冒険者に恨まれます」


 「これだけの数を持ち込んでいてその台詞は笑えないぞ」


 「これはロクサーヌからコルシェまでの間を、ジグザグに歩いてきた結果です」


 「まぁ、気が向いたら持ってきてくれ」


 呆れたような声を残して解体係のおっさんが戻っていく。


 「レオンさんってそんなに稼いでいるのですか?」


 「まぁね。魔法を授けてくれたフェリーシェンヌ様には感謝しているよ。ところで、ギルドのポーションの味はどうでした」


 俺の問いかけに、トビーを含む三人の顔が歪む。

 梅干しを思い出して、酸っぱい顔になる子供のようで笑ってしまった。


 「ポーションは薬師ギルドで買うに限るってのは本当のようですね」


 「薬師ギルドで売っているポーションの味は知りませんが、ギルドで買うポーションは苦い薬草を濃くした物を齧っているようだとの評価です。今回飲んでみて間違いないと思いました」


 「それじゃ草原よりも先に薬師ギルドに、案内してもらおうか。一人一日銀貨一枚の日当で良いかな」


 「それよりもファングドッグが一頭22,000ダーラで売れました。ポーション三本で25,000ダーラでしたので107,000ダーラお返ししておきます」


 「それじゃ今日の案内料としてそれを納めて下さい」


 「こんなに貰っても良いんですか?」


 「そんなに長い間じゃ有りませんので問題ありません」


 * * * * * * *


 薬師ギルドに案内してもらいサディアス達を待たせてギルドに入るが、ここにもむくつけき男が俺を迎えてくれた。


 「何の御用でしょうか?」


 「ん、冒険者ギルドよりマシなポーションを買いに来たんですが、初めてなので説明してもらえますか」


 薬師ギルドに何を買いに来たと思っているんだと思ったが、そういえば薬師ギルドでも薬草の買い取りもしていたのだった。


 耳の上部が少し尖り気味で美形、何処からどう見てもエルフ族の男?が現れた。


 「ポーションを買うのは初めてで?」


 「はい、表の者が冒険者ギルドのポーションを飲んで不味いって言っていましたので、効き目が良く味もまともなのを買っておこうと思いまして」


 「君達冒険者なら怪我の回復ポーションだね。病気の回復ポーションは病気になってからでも間に合うだろう」


 確かに、怪我はその場で治った方が良いに決まっている。


 ポーションは初級・中級・上級に別れていて、各級に上中下の三段階に別れているそうだ。

 わんこに噛まれた程度なら初級の下で十分だが肉を噛み裂かれたなら中か上のポーションが必要だそうだ。

 低ランクのポーションでもそれなりに傷は治るが、ランク程度の治り方とのお言葉。


 大怪我、骨が折れたり大きな切り傷になると中級ポーションが必要で、上中下は怪我の程度次第だそうだ。

 説明を聞きながら、怪我をして各ポーションの使い方を覚えろって事かと思ってしまった。

 冒険者で瀕死の重傷でなければ中級ポーション三種を持っていれば先ず大丈夫だと言われる。


 説明を受けているときから時々あの気配を感じて、目の前のエルフをマジマジと見てしまった。

 思ったよりも良心的な価格なので、予備も含めて買っておくことにした。


 初級ポーションの下、12,000×5=60,000ダーラ。

 初級ポーションり中、20,000×5=100,000ダーラ。

 初級ポーションの上、28,000×5=140,000ダーラ。


 中級ポーションの下、60,000×2=120,000ダーラ。

 中級ポーションの中、120,000×2=240,000ダーラ。

 中級ポーションの上、180,000×2=360,000ダーラ。

 総額1,020,000ダーラ。


 代金を支払い、ポーションケースをおまけしてもらって受け取ると、思わぬ事を言われてしまった。


 「君はエルフの血が濃いようだが、魔法使いなのか」


 「確かに魔法使いですしエルフの血も1/4ですが入っています。それが何か?」


 「気配察知のスキルを持っているね」


 又、気配察知か。


 「冒険者をしていますし、気配察知もそれなりに使えますが・・・」


 「では私のことも感じているね」


 これって気配察知に引っ掛かっているもののことかな。


 「貴男の周りに、時々現れる気配の事ですか?」


 にっこり笑って頷くが、目は真剣そのものだ。


 「気配察知で何か判らないながらも、そこに何か居ると気付く者は時々いる。君は何だと思う」


 「それが判らないので気になっています。敵意はないし、気配察知に引っ掛かったときには人の側で、その人に纏わり付く感じかな」


 「極少数の者や我々エルフ族は、それを精霊と呼び精霊が付いている者を精霊付きと呼んでいる」


 「精霊付き・・・ですか?」


 「私自身は魔法を授かっていないし気配察知のスキルも能力もない。私の周囲に現れるものの事は里にいるときに教えられただけで、長老の話では精霊付きは精霊の手助けを受けられるそうだが、君自身には付いていないのかな」


 「感じたことはありません。草原で出会った魔法使いから時々気配を感じて、気になっていたのです。ギルドでは人が多いせいか感じた事はなかったもので。精霊の手助けっていいましたが・・・」


 「私は薬師で、調薬のスキル持ちだが・・・」


 そう言って肩を竦めるので、御利益を受けていないようだ。


 「余計な話をしてしまったかな、久し振りに気付く者がいて喋りすぎたようだ。エルフの里に行くことがあれば、長老達に尋ねてみれば良い」


 結局呼び名が判っただけだが、精霊とはねぇ。

 突拍子もない話だが魔法やスキルの存在する世界だ、何か御利益があるのだろうが懐かれてもいないので関係なさそう。


 表で待つサディアス達に初級ポーションの値段を教えると、相談して万が一に備えて買っておくと言い中へ入っていった。


 * * * * * * *


 懐の残金2,200,000ダーラ少々、服もブーツも見劣りしない物が欲しが取り敢えずまともな短槍と弓矢を買いに行くことにした。


 サディアス達が街中の案内でファングドッグの残金を貰っても良いのかと恐縮していたが、初めての街で俺一人ならポーション一つ買うにも一日掛かりになるだろう。

 明日から草原を案内してもらうので、気にしないようにと言っておく。

 短槍も弓も必要ないのだが、無傷の獲物を持ち込めば何かと説明が面倒なので、止めを刺したり傷付ける為にも、切れ味の良い物が必要だ。


 槍先の長い頑丈な短槍が200,000ダーラ、二人張りの弓が180,000ダーラと鏃の重い矢30本150,000ダーラで合計530,000ダーラ。

 残金1,800,000ダーラ程で金が減るのが早い。

 まともな服とブーツを買えばいったい幾ら掛かることやら、当分冒険者の店のお世話になりそうだ。


 * * * * * * *


 「この辺で寝ているって言ってたよな」

 「あれじゃないか」


 ケネスの指差す先にひょろりとした木が一本立っている。

 枝の葉は全て取り払われていて、枝の先にだけ葉が数枚残っていて良く目立つ。


 「木の立っている方の草原に居るって言ってたよな」

 「そう遠くない目立たない場所だと言ってたぞ」

 「あそこよ」


 レジーナの指差す先は丈高い草むらで、街道脇に立っていたのと同じ様な木が立てられていた。


 「確かに目立たない場所だろうけど」

 「目印の木がやたらと目立っているよな」

 「これって何処から入るんだ」


 サディアス達があれこれと言っている声が聞こえたので「草叢に突っ込めばドームに突き当たる」と答えてやる。

 最近覚えた静かに眠る方法で、草叢の中に直系3m程の空き地を作り小さなドームを設置すると、野獣の接近も減るし目立たない。

 おまけに夜は未だまだ寒いので、フライパンにフレイムを乗せておけば暖もとれし、外からは見えづらい優れ物だ。

 空気の循環用の煙突も付けているので、死ぬ心配もない。

 安心安全便利、フェリーシェンヌ様有り難う。


 ガサゴソと草をかき分けてやって来たサディアス達をドームに招き入れ、お出掛け前のお茶を提供する。


 街を背に森に向かって進み、森の境付近で少し狩りをして引き返す予定を伝える。

 レジーナには俺が斥候と周辺警戒をするので、魔力溜りの場所を教えてそれを探していれば良いと言っておく。

 歩きながらは大変だろうが、それが出来ないと次に進めないので頑張ってもらう。

 魔法使いの基本、魔力操作と発現の要領は魔法使いなら誰でも知っている事だ。

 それが出来る様になれば、多少人より優れた魔法使いになれるようには教えるつもりだが、それ以上は教えるつもりはないので何処まで上達するかな。


 サディアス達には俺から離れない事と、呼べば俺を中心に集まりしゃがめと言っておく。

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