第17話 島探索1

 異世界に来て五日目になった。

 順調に水の確保にも成功した。


 仲間も増え、慣れない生活ながら必死に生きているわけだが……。


「う、おぉ……」

「…………」

「ぐ、ぐおおおおおっ」


 早朝、苦悶の声が聞こえてぱちりと目が覚める。

 胸部には誰かの手の感触。


「た、助け……ゆ、ゆーりぃ」

「し、シェラ? ちょ!」


 助けを呼ぶシェラの声、

 寝る前は綺麗な川の字だったのに。

 イールスの寝返りで中央のシェラが潰されていた。


「ゆ、勇者貴様ああ、寝相が悪すぎるぞ! 我をつぶす気か」

「す、すいません、すいません、本当にわざとじゃないんですよっ!」

「貴様……一度我を殺しただけじゃ、まだ足りないようだな?」

「い、嫌な言い方しないでください、もう……」


 何度も謝るイールス。

 朝から騒がしい二人を見ながら考える。


「私、枕がないと深く眠れないんです!」


 ……枕かぁ。


(確かに枕は俺も欲しいなぁ)


 ベッドで寝たいとか、そんな贅沢は言わないけど。

 睡眠の質が下がると疲れも取れない。

 そば殻枕とかなら、簡単に作れないもんかな。

 でも、虫避けに日干しとかしなきゃいけないんだっけ?

 どうにも記憶があやふやだ。


 過去、異世界系の小説とかよく読んだけど。

 実際の知識なんてこんなもんだと思うんだよ。

 実践なんて無理です。


 まぁそれはともかく。


「二人とも、今日は島を少し探索してないか」

「島ですか」

「ああ」


 イールスがここは島って言ったけど。

 まだ自分の目で確かめたわけじゃない。

 道中、何か役立つ植物も見つかるかもしれない。

 イールスがいれば安全に移動できるだろうし。


 朝食を食べたあと、俺たちは島の探索を始める。

 まずはイールスが一昨日向かったという、海岸地点へと。

 薄暗い森の中をゆっくりと進むが。


「あ、歩くの……きつい、お前たち、早すぎるぞっ!」


 移動中、後ろで弱音を吐くシェラ。


「我……子供なんだ。歩幅小さいし、すごく疲れるのだぞ」

「まぁまぁ……もうちょっとで海岸に着きますから」

「もうちょっと? ……だと、勇者が偽りの言葉を吐くのか? さっきから何回もうちょっとと聞いたと思っている?」

「本当にもうちょっとですから、辛抱してくださいよ、シェラルクール」


 魔王を宥める勇者様。

 本当になんだろうな、この構図。


「ユーリ、我をおんぶせよ」

「やだよ、疲れる」

「むぐぐ」


 きっぱりと拒否する俺に不満顔のシェラ。


「悲しいのう……愛のない返事、我はとても悲しい」

「……あ?」

「いつからだ? いつからユーリはそうなってしまった?」


 なんだいきなり?

 まだ出会って一週間も経ってないのに、コイツに俺の何がわかるというのだろう?


「子供と大人、男と女、真の平等などは存在しない。だから人々はお互いに欠けた部分を補うために助け合うっ! お前が子供の頃、差し出された温かい手に助けられたことは一度や二度ではなかったはずだ。思い出すのだっ! あの時の光景を、今度は成長したお前が手を差し出す番だと思わないかっ!」

「きっと、大人に嫌われる子供ってこんな感じなんだろうな」

「お、おいこら、馬鹿ユーリ」

「本当にしょうがないですねぇ、貴方は……」

「うおっ!」


 ひょいっとシェラを肩車するイールス。


「やめろっ、貴様には頼んでいないぞっ!」

「暴れないでください、落ちたら危ないですよ。ほら、子供なんですから存分に甘えてください」


 じたばたするシェラを腕で押さえつけるイールス。

 なんだかんだで仲悪くないよね、君たち。

 そんなやり取りを挟みながら森を進む。


「ガアアアアア!」

「えいやっと」

「キキッ!」

「ちょいやぁ」


 歩いている途中。

 魔物の襲撃も何度もあったが、偉大なる勇者様が防いでくれる。

 倒れているのは全身に紫色の毛がびっしりと生えた巨大猿や泥人形だ。


「危険生物ばかりですね。マッドパペットにエンペラーコング、ここまで危険な魔物の生息地は私も経験がありません」

「危険でも全然苦戦しないのね、イールス」


 おんぶした状態で現れた魔物を蹴り飛ばしていくイールス。

 聖剣すら使わないんかい。


「この勇者が苦戦するような魔物がでたら我らは終わりだ」


 ま、それはそうか。

 背中におぶさったままシェラが言う。


「しかし、さっきから同じような植物が目につくな」

「そう、ですね」


 シェラの言葉にイールスが頷く。


「私もそれは考えていました。果実や食用の植物やキノコ類が見つかればと思いましたが……なかなか見当たらないし」

「というか、なんだろうな……この木」

「ふぅむ」


 二人も見たことのない植物らしい。

 樹高三十メートルはある黒みがかった緑の巨大木。

 さっきから見かけるのは同じ木ばかりだ。

 幹も異常に硬い。まるで鋼のようだ。

 まだ日中だというのに、この木が密集しているせいか森全体が暗く見える。


「普通の刃物じゃ絶対に切れませんよ、これ」


 手で木を叩くイールス。

 カンカンと木らしくない反射音がした。


「癖の強い頑丈な特殊植物、年代変化だけで生まれたものなのか……ただ、生命の進化には理由が必ずあるはずだ。うぅむ情報が少な過ぎてわからんな」


 肩車されながらぶつぶつと呟くシェラ。

 ダンジョンから一時間ほど歩き、俺たちは海岸へとたどり着く。


「ほ、本当に島になっておるとはな」


 唖然とした顔のシェラ。

 見渡す限りの海、遮るものは何もない。

 近くに島や船なども見つからない。

 背後の大きな黒岩に背を預けて、俺たちは海を眺める。


「海に向かって駆け出したりするなよ」

「我は子供ではない、心外だぞ。そういった扱いは」

「……」


 まぁいいや。

 もう突っ込むのもめんどくせえ。


「何も……ないのう」

「ああ」


 寂しく波の音が木霊するだけ。


「まさか、この世界には我らしかいない……なんてことはないよな」

「さぁ……わかんね」

「反応が淡々としておるのう……ユーリは」

「そうか?」


 シェラに対し、俺はその辺は結構楽観的だった。


「そりゃ、島に俺一人で生活してたら恐怖や孤独を感じるかもだけど。傍にシェラとイールスがいるしな」

「お主……よく照れずにそういうこと言えるな」

「照れる要素がないだろ、事実なんだから」

「お、おぉう……」


 世界に独りぼっちってわけじゃない。

 ちゃんと話ができる相手がいる。

 当たり前のように思えて、ありがたいことだ。


「ふ……だが、お主の前向きな考え方は嫌いじゃない」

「そうか」


 今の会話で少し力が抜けた様子のシェラ。

 その方がいい。


 あまり重苦しい雰囲気はシェラには似合わないと思うしな。


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幼女魔王とゼロから始めるユーリの異世界サバイバル生活~適応力抜群のスキルがあれば終焉の地も住めば都です~ 微分積分 @invrag2025

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