第23話 尽きない願いが芽生えるとき

ボクはヒトと一緒に道端で芸をする事になった。


ヒトが棒を振ったらボクが身体を動かす。

たくさん練習した。


ヒトの思った通りに動いたら、ボクに食い物をくれる。

ボクがヒトを笑わせれば、ヒトが喜ぶ。


うん。

楽しい。

少し大変だけど、

みんな笑ってるしボクも楽しい。



そんなある日


「×××。×××××××××××××××!」


ヒトが嬉しそうな、どこか不安そうな顔でいつもより派手な布を身に纏っていた。


何かあるのかな。



「クゥ?」


「×××××、××××××××××!!」


なんだろう。

大事な事を言ってる気がする。


でも安心して。ボクもヒトの為に頑張るから!



そして、

いつもより丁寧に毛を解いてくれた。

ボクを連れて何処かへ行くそうだ。




⚪︎⚪︎⚪︎魔法少女 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




「魔法少女が生きてる以上、否が応でも魔力は溜まるんだよね。

私達ってさ。

願いを糧に魔法使ってるでしょ?

まぁ、糧って言っても減るわけじゃ無いんだけど」


「はい!だから魔法少女は最強なんです!!!

・・・・・・ぺっ!」


うぅ、口に土が入ります!

そうです!!

ノーレンジの転移です!!!


「そうだね。

願いは魔力になるからその理屈も間違ってないよ。

でも、それには限度があるんだ。

知ってる?願いが尽きた魔法少女の末路」


首に魔力を込めてぇぇぇえええ!!


「んむぅ・・・・・・えいっ!!!

っとう!いぎっ!首が痛いです!!!

知りません!!!」


「わっ!!!えっ!?転移!?!?

いや待って!?

今、めっちゃシリアスだったよね!?!?

転移で首立たせるの怖すぎなんだけど。

その顔で真っ直ぐにだとビジュがこけしすぎる。

ホラーだよ」


「ととっとおっと!

バランスが取りづりいです!!」


「手足どころか身体がないんだから、そりゃそうでしょ。

うぅん。やっぱ倒れてくんない?バランス取るために首と髪がありえんくらい揺れてるのマジできもい。

あーーいや・・・・・・わたしが吹っ飛ばした責任か。

少し待ってて」


「ほよ?」


おぉー!

姿がブレました!!

魔法少女さんがさっきと別の所にいます!!!

不思議っ!!!


「っと。

本当にごめん、君の身体。近くに無かったわ。

ん~君が持ってる能力は転移と治癒系?だよね。

その状態で生きてるし」


「治癒?かはわかりませんが!!!

転移はできます!!!」


ノーレンジの転移はとっても便利です!!!


「ん〜、どうしよっかな。

作戦に君いないよね?野良かな。野良だよねぇ。

そもそも人なのかって話。

はぁ。この凍った女の子もどうにかしないとだし」


「あーー!!!

ダメです!!!

ねーちゃんさんは置いていってくださいっ!!!」


「怖い怖い怖いっ!

揺れないでよ。君、首だけの状態に慣れて来てない?

・・・・・・だいぶ話が脱線したけど、無茶はしちゃだめだよ?って話をしたかったの。

身の丈を超えすぎる願いを叶えようとした魔法少女は。

その願いに溺れて、呑まれちゃうんだから

・・・・・・。

うん、ならこの凍った子は君に任せるね。

わたし、そろそろ行かないと。

魔法少女崩れあほどもをとっ捕まえないといけないしね」


「はいっ!!!

さよならです!!!」




「ぜったい無茶はダメだからね?

先輩からのお約束だから!

それじゃ!!!」




⚪︎⚪︎⚪︎フロストストリート 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




「痛ったぁ!

っ!!!

ねーちゃん!!!ドールは!?!?」


あたりを見回しても2人は見当たらない。

背丈を超える木々が無秩序に並んでいるだけであり、魔力探知を行ってもドールの魔力は見当たらなかった。


「急いで戻らないとっ!」


幸い、飛ばされた私がなぎ倒した木々が戻る方向を示してくれている。


待っててねーちゃん。

絶対。私が助けるんだから。




⚪︎⚪︎⚪︎




「よっと!あーもう遠い!どんだけ吹っ飛ばされたんだよ私は!」


結構走ったんだけどな。

まだドールと居た所には着かないっぽい。


「しかも戦闘音がさっきより近くで聞こえるんだよね~」


正直、結界で1人行動は怖い。

いつ魔物に襲われてもわからにから独り言が増えるくらいには不安になっている。


「ドール大丈夫かな。首だけで生きてるの相当謎だけどっ、まぁそこはドールだし。

あと襲撃してきたのが誰か知んないけど、絶対っ」




木の間に人影を見た。




「よぉ、くずり」


「え、日比ひくら!?ここ結界だよ!?」


私は慌てて止まる。


「この結界に行く様ぉ進めた手前な。少し心配したんだわ」


「そうなんだ。ありがと。

でも危ないよ?聞こえてると思うけど今めっちゃ戦ってるし。

私もねーちゃんを助ける為に早くに行かないと!」


さっきドールとねーちゃんを助けるためには沢山の魔力が必要で、それを魔物で補おうって話をしてたんだよね。

それから、えっと。


「ならぁ、今は魔物の方に向かってるって事かぁ」


「あーそうだった。そう。魔物を倒すんだ!ねーちゃんの為にね!

日比ひくらも気を付けてね?元魔法少女だけど攻撃魔法は使えないんでしょ?」


「あぁ。くずりも気を付けてくれよ。折角ここまで来たんだ。

てめぇの願いを叶えねぇなんて真似するなよ?

ほら、行きなぁ」


「当たり前じゃん!やっとねーちゃんを助けられるんだしね!

それじゃね日比ひくら。も色々ありがとね!」


そう言って私はに走って行った。


何故ここに日比が居たのか。

何故来た道を戻るのか。

何故先ほどの事を忘れたのか。


私を送り出した日比がどんな顔をしていたか。

私は何も知らなかった。




1人の少女を見送った女性は、少女に背を向けほくそ笑む。




「精々頑張ってくれや魔法少女。

てめぇの願いは叶うんだ。

そうなりゃこのクソったれな世界も少しはマシに変わるってな。

魔法少女と人。両方助ける初期投資だと思って張り切ってくれよ」




⚪︎⚪︎⚪︎小鬼 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




ヒトとヒトが、

何か言い争っている。


広いばしょ。

屋根はヒトと一緒に暮らしてる所より高い。

風がゆったりと吹いてるけど、その風には気持ちよさは無い。


ここにはボクを含め4匹いる。

ボクとヒト。

ヒトと同じくらいのヒト。

ガタイのイイヒト。


ヒトが何を話してるのかまだわかんないけど、それでもボクを守ろうとしてくれている事はわかった。

だって。

ボクの前に立って中々聞かない大きな声を相手に向けて出していたから。


「~~!!!」はよう、その猿めを渡さんかっ!!


ガタイのイイヒトが敵意を向けて来た。


「ゥ?」


なんでだろう。

今日はいつもより頑張った。

ヒトが嬉しそうだったし、ボクもつられて嬉しかったから。

少し服は重たかったけどね。


「~!。~~~!」

「~~!!」


まだヒトと相手の話は進んでいる。


ボクもヒトの言葉がわかったらな。

ボクもヒトの言葉を喋れたらな。


今のボクは楽しいって、嬉しいって、ヒトに知ってほしい。


いつもいえでボクの話を聞いてくれるヒトが好き。

撫でてくれるヒトが好き。

一緒に居てくれるヒトが好き。


だから悲しい顔でボクを見ないでよ。


「?」


優しい手が頭に乗った。

そのまま頭を撫でて、ボクを引き寄せた。


「××××、××××。・・・・・・×××××"×××"」


「・・・・・・ゥゥ?」




ドスッ




重たい音がした。

ヒトの身体がボクに寄り掛かった。


え?


な、なにが。


「・・・・・・?」


ボクはヒトの身体を支えようと手を伸ばすが、それよりも早くヒトが地面に倒れる。追って視線をヒトに向けるがヒトが動く気配は無い。

ヒトの背に刺さった木の棒が刺さっていた。


「エ」


声が出ない。


何が起こったの?


ヒトはどうなったの?


「ゥゥゥウウウウ!!!」


ねぇ、ヒト。大丈夫だよね?

疲れたんだよね?


ヒトは身体を揺すっても動かない。

ゆすったせいか、地面ゆかに滲むが血が増える。


・・・・・・やめてよ。

ボクを1人にしないで。もうこれ以上1人にしないでよ。

群れも親もヒトもっ!

どこにも行かないでよ!!!


「×××××。×××××」


・・・・・・。

顔を上げたらガタイのイイヒトが弓を下に向け背を向けていた。


ボクの本能は殺せと。

ヒトを殺した憎き敵を殺せと叫ぶ。

だけどボクの身体は未だ動かない。


多分それは敵への恐怖では無い。

だって抱いているのは怒りでも絶望でもない。

純粋な疑問だったから。




・・・・・・・・・・・・。

どうしてそんな酷い事が出来るの?

ヒトが何をしたって言うの?

何か間違いを犯したの?

これはボクのせい?


疑問が溢れて来るけど、応えてくれるヒトはもういない。


だって。

ボクのせいかな。そうだよね。

だってヒトはボクを庇ってたし。

でもっ。だからってっ。


頭の中で何かが外れる音がする。


楽しいを邪魔されて好きを遮られ、尽きぬ疑問の中。

不思議と頭は透き通っていた。


それは好きヒトを喪失して出来た空白なのか。

はたまた、ボクにあった本能が芽をだしたのか。


どっちだって構わないし、関係無い。


ヒトはこの選択を怒るかな。

優しいし絶対に怒るよね。

怒ってくれるならまた会えるって事かな。

だったら。

今からする事をちゃんと怒ってほしいな。




ごめんね。

もう1人になるのは嫌なんだ。




⚪︎⚪︎⚪︎プリンスブレード 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




「ク”ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”!!!!」


「ははっ。よく吠えますわね!

声に魔力が乗っていましてよ?取り繕う事も出来なくなったのかしら?」


既に相対する魔物は満身創痍だ。

着ていた法被はっぴは既に無く右腕、左腹。左脹脛ふくらはぎが欠損しており、首より上に出来た傷はもはや原型を忘れさせるほど痛ましい。


魔物の場合、声に魔力を乗せるデメリットはほぼ無いがそれでも極わずかに魔力は消費する。

それを嫌って小猿は声に魔力を乗せていなかったが、プリンスブレードによる一方的な蹂躙の末、そんな些事に気を回す余裕は無くなっていた。


「一応目は閉じていましたけれど、期待しすぎたかしら」


そう言って、五体豊饒ごたいほうじょうで上げた身体強化を緩める。


これほど実力に差があるなら、仮に目を開けていたとしてもこの小猿がプリンスブレードを操れたとは考えにくい。

息も絶え絶えな魔物にこれ以上の隠し玉が無い事を確認したプリンスブレードはこの舞踏の終幕を宣言する。


「そろそろこの結界もお開きと致しますわ。最後に足掻くなら今ですわよ?」


圧倒的な実力差を見せつけたプリンスブレード。

その事実をもって彼女の欲は満たされた。

これ以上の戦闘には意義が無く、

故にこれは驕りでは無く慈悲である。


少し遊んだ近所の犬の帰り見届けるような、

一応見届けるが、これからなにも起きないだろう。

そんな軽くほうけて見つめるような。


或いは驕り。

『魔物相手に絶対は無い』という原則を忘れた魔法少女がみせた油断。



「・・・・・・ァ”ァ”。ク”ァ”、ア”ア”ア”!!!

ォ、ホ”ク”・・・・・・ホ”ク”ハ”ァ”!!!」


「っ!?言葉!?!?」


人の言語を介する個体は居ない。

いや、居なかった。

かの厄災ドールが生れるまでは。


魔物の変化に気付いたプリンスブレードは素早く身体に魔力を流す。

だが、先ほど五体豊饒ごたいほうじょうは解いたばかりであり、上手く全身に魔力が回らない。


そして


「・・・・・・ホ”、ホ”ク”ハ”。ア”ノ”、ヒ”ト”サ”エ”、イ”テ”ク”レ”タ”ラ”!!!

ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」


人の言語を介した魔物は残る左腕を天に突き出し、飛来した魔力からだを掴んだ。


「っ!なんて魔力!?」


五体豊饒ごたいほうじょうを身体全体に行き渡されたプリンスブレードをもってしても怯む魔力が飛来した。




肩から上のパーツが足りていない人の形をした魔力が確かに魔物の手に渡る。




まずいっ!

止めないと!!


理屈では無く直感で告げる。アレを喰わせてはいけないと。

怯んだ脚に無理やり魔力を通す。


五体豊饒ごたいほうじょうっ!三番さんばん!」


だがそれよりも早く。


「ヨ”カ”ッ”タ”ン”タ”ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!」




呑み込んだ。













⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎


ギリギリ書けたので月金更新になります。


では!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 月曜日 12:00 予定は変更される可能性があります

魔法人形は友達を作りたい。 久瑠璃まわる @saito0915

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ