第22話 前日譚あるいは事実

男と初めて会ったのは水が上から沢山降ってきた日だった。




「×××××?××××××××××。×、×××?」


音が聞こえて、

身体に当たる水が止まった。


顔を上げると少しやせたヒトが居た。


ただ、

何を言ってるかわからなかった。


それもそうだ。

相手はボクと同じではない。


大きなガタイで道具を使うサルをヒトと言う。

群れに親からそう聞いた。


「××?」


「クゥゥウウウ」


腕を引っ張られた。


触らないで!!


「××、×××××××?

××××××××××××、×××××××××××××」


威嚇をするけど、ヒトは動じない。

お腹が空いていて、うまく動けない。


「・・・・・・クゥ」


抱えられた。


・・・・・・。


どこにいくんだろう。


・・・・・・・・・・・・。


でも。

群れから離れてしまったボクに居場所なんて。




⚪︎⚪︎⚪︎プリンセスブレード 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




「しっ!」


「××××!!!」


既に周囲は禿山はげやまとなり、2人を遮る障害は無い。

故に両者に搦手は無く。

体格差のある2人による純粋な近接攻撃が舞踏の様に繰り広げられていた。

苛烈で無駄を削ぎ落とした攻防はまるで華麗な劇の様。




タイプSS。虚言・靱猿うつぼざる


その近接能力は剣王の連撃を的確に捌くほどの技量を持つ。

その上、外見に似合わず緻密な戦略を立て、プリンスブレードの一瞬の隙を的確に突く実力を有していた。


「×××!!」


「っ!ふぅ。

近接も上々。

上に魔力を極限まで抑え、適度な開放をする事で位置を誤魔化す。

結界主を倒した実力は確かと言う訳ですわね」


目を閉じているのはプリンスブレードの判断によるため、「見えない」では無く「見てない」が正しいが、相対する魔物の特性を考えればという行為は出来うる限り控えたい事に変わりはない。


なぜなら。


「洗脳。いえ。共感や共有と言った方が正しいですわね」




この魔物が持つ物は伝承では無いがそれに準ずる奇譚きたん


今でも語り継がれる狂言。

要約するなら、猿が大名の哀れみ貰い最終的に猿と一緒に踊る。そんな話。

そもそも哀れみを持つ経緯が大名のせいであり、

良い話で納めるならいささかマッチポンプが強すぎる。


だけど、問題はそこでは無い。

この「哀れみを買い一緒に踊る」という文言が魔物となる際に悪さをした。

感情を共感させ、

行動を共有させ、

相対する敵を己に逆らえない様にしてしまう。


かつての第3位。そして結界主であったタイプSS。反転・猿田毘大神さるたけひこおおかみが敗北を喫した事から能力の有用性はわかるだろう。


だからこそサポーターであるのあは、開戦以降通信を切っている。

のあは結界外にいる為、問題は無いと思うが念のため。

仮に通信を繋いでいても、魔法少女では無いサポーターではこの速度の戦闘には着いけない。




「そろそろ温まってきましたわね?

では、もう1段階上げますわよ。

・・・・・・。

五体豊饒ごたいほうじょう

三番さんばん

兎脚ときゃくっ!」




五体豊饒ごたいほうじょう

体内で魔力を循環させ、必要な箇所に重点的に魔力を送る技。

身体強化を細分化し、限界まで最適化された効率は魔力消費を0へと変える。

少しでも加減を間違えれば魔力を流した箇所は破裂するが、そんなミスをするプリンスブレードでは無い。

それ以外のデメリットを上げるなら性格が好戦的になるくらい。




そして得られる力は。




プリンスブレードは瞬時に小猿の背後へ回り込み、両刃剣のブレイドが小猿の心の臓へと迫る。

が。小猿がそれより早く振り返り、その勢いで裏拳を振る。


「わかっていましてよっ!

四番よんばんっ。兎来・八とらい・やつっ!!」


しかしそこ剣王はいない。


音も無く。

魔力も無く。

気配も無い。


「××××!!××!!」


「・・・・・・ふぅ。

腕。一本貰いましてよ」


剣王出現したのは8方向からの斬撃。

小猿を1人で囲い、右腕を切り落とす。


目や耳で追う事を許さない。

知覚を事を許さない。

反応すら許さない。


先程までの拮抗はあくまで、剣王が格下相手にに過ぎない。


そう。


おのが実力を試すに値するか。

試金石となる程の価値が相手にあるのか。




過去の第3位を殺めた?

それは本当にわたくしより強かったのか。


結界主が負けた?

ではその魔物が弱かったのでは。


魔法少女の救難?

結界主を倒せば終わる事でしょう。


ロスト・タイムを助ける?

アレはそんなやわでは無い。


努力目標?撤退を視野に?

この程度でその選択肢は無い。


「××××××××!?!?」


故に。


「ふふっ。

魔物でも理解が追いつかないと驚くんですわね。

五大豊饒ごたいほうじょう。久しぶりに使いましたけど、案外身体が覚えていますわね」



魔法少女は組織としての活動が実は得意ではない。

それは彼女たち一人一人に夢があり、それが力となるため。

己が最強で無敵と称する彼女たちと、組織として型にハマった戦力を求める大人。

この二者は過去,少なくない回数の衝突を起こしている。


ではその頂点の一角に君臨する魔法少女はどうなのか。

結論。例外は無い。

魔力を体内で循環させ続け増幅させ更に濃度を上げている。

結果として軽い魔力中毒に陥ってる彼女には、普段通りの冷静さは無い。


「この力。

確かに強いのですが、弊害もありますの。

ほら、先ほどわたくしが蹴った地面。

たったそれだけで数mのクレーターが出来ているでしょう?」


見かけた魔法少女は助けた。後の魔法少女は元凶を倒す事でおのずと解決に向かうでしょう。


なら後は自身の望みを叶えていいですわね?


「さて、魔物?

わたくし、九州での不完全燃焼がまだ終わってないんですの。

ですから、

魔法少女わたくし魔法ねがいに応えてくださらない?」




ここから始まるは一方的な蹂躙である。




⚪︎⚪︎⚪︎小猿 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎



ヒトに抱えられ、身体が濡れない様にか洞窟に入った。


・・・・・・洞窟かな?

でも外は木で作られていて、カクカクしている。

てっぺんはフサフサしている。

???


そしてヒトは飯をくれた。


「×××××××××××××××。

××。××××××?」


「?」


相変わらず何を言ってるのかわからないけど、

食い物を差し出してきた。

???


ボクの?

でも。


ぐぅ~


お腹が鳴った。


「クゥゥウウ」


「××××××」


ヒトは目の前に食い物を置いた。


良いのかな。

お腹が減っている。

我慢はこれ以上出来ない。


「・・・・・・クシャ」


あぁ。


群れから離れてしまった時を、

探しても見つからなかった時を、

食い物が無くて諦めた時を、

思い出した。


口の中に水気が増え、味が鮮明になる。


群れに居た時、

何気なしに与えられていたモノは。

こんなにも美味しかったのか。


目から水が流れた。




⚪︎⚪︎⚪︎




あれから結構たった。

沢山、明るい丸が上がって落ちて。

ヒトは明るい時に縄張りを出て、暗くなると帰ってくる。


ボクも山に行ったり川に行ったり。

木に成ってる食い物を取ったり、川で身体を洗ったり。


そんな楽しい生き方をしていた。


「××、×××?××××××××?」


ヒトは何かを話してる。


何かわかんないけど、なんとなくわかる。


ヒトはボクに何か求めてる。


「クゥ?」


美味しい物をくれるしヒト。


山や川に行った後、

毛を整えてくれる手は優しくて好きになった。

話してる事はわかんないけど、その優しい声が好きになった。



だから、このヒトが何かを望むなら叶えてあげたい。




⚪︎⚪︎⚪︎魔法少女 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




身体が無くなっても!!!

最強な魔法少女です!!!


ふぬぬぅぅぅぅぅぅうううう!!!!


「うぅ。無理です!身体が生えてきません!!!」


なんだかお腹に溜めた魔力が使えません!

それにどんどん魔力が無くなっていきます!!

大ピンチです!!!!


「斬り飛ばしたのは謝るけどさ。絶対人じゃないでしょ。君。

と言うかさ。

わたし1人分とはいえ、SSを軽く消失させる蹴りを受けて元気って何?」


「魔法少女です!!!

う、うぅ。

喋るたびに口の中に砂が入ります!!!

ペっ!!!」


どうしましょう!!!


「後さ、。君がやったの?

やたら頑丈に凍らせてるけど」


頑張って目を横にずらしたら!

なんと!!

凍ったフロストストリートのねーちゃんさんを持っていました!!!


「ああーー!!

駄目ですよ!

ねーちゃんさんは今っ!!!

なんですから!!!」


「おねむ?

ん~この子、魔法少女だよね?これだけの魔力に宛てられても身体に変質は起こっていないし。

でも、魔力は無い。

それに。まったく動いてない」


「生きてます!!!

魔法少女は最強ですから!!!

はっ!お~~~!!!

フロストストリートと同じで動いてるかわかるんですね!!!

最強です!!!」


「これでも長い期間わたしは魔法少女してるしね。

こういった魔法少女も何人もつもり。

・・・・・・。

君はこの子の関係者かな?

その、フロストストリートって子の知り合い?」


「はい!」


「そうなんだ。

だったらそのおねむ。って発言は誰かを想って出た言葉なのかな。

・・・・・・ふぅ。

その嘘は君の優しさかも知れない」





「わたしも残酷な事実は知らなくて良いと思うけどね。

でも。

その嘘をつくって事は、君は気付いてるはずだよね。

この子はもう息を引き取っている。って」

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