第3話 ……ピコン。退勤します~ざまぁは一瞬、平和は長く~

 ……ピコン。残り十秒です。


 ――世界は静かになった。


 凶悪な魔物たちの姿は、もはやどこにも確認できない。

 こうして、無理矢理に召喚術を実行して魔物の軍団に襲われた王国は、一人の聖女に救われたのであった。


 王国に平和が訪れた後、俺はさらなる事実を知るハメになる。


 俺の指輪が食事のたびに光ったのは、王子とマリリンに脅された料理人が、毎回すべての料理に毒を仕込んでいたからだ。

 ちなみにシアンからもらった指輪は、毒の無効化に特化した厳重管理対象の国宝だった。


 シアンには、感謝しかない!

 これからも、いい友情を築いていこうと思う。


 毎朝恒例となっていた“俺の部屋だけリフォーム”の件についてだが、これも王子とマリリンが国庫をふんだんに使って雇った暗殺者が原因だった。

 毎晩やってくる刺客たちを結界が跳ね返した(撃退した)痕――と、のちに知る。


 どうやら俺は、召喚されたその日から、毎日命を狙われていたらしいのだ。


 アフォ~マリリンを「アフォ~様」と呼んだ者は皆、地下牢ちかろうにぶち込まれ、彼女、ときどき王子から“お仕置き”という名の拷問ごうもんを受けていたらしい。

 毎回、シアン率いる第一騎士団に秘密裏に救出され、保護されていたのだとか。

 結果、今回の一連の騒動を起こした第一王子は王位継承権を剥奪。

 これからは一般市民として暮らすことになった。


 ただの一般市民になった偽聖女アフォ~マリリンとは、あえて夫婦にして、はる彼方かなたの辺境へと追放。


 アフォ~マリリンと勘違い王子へと貢がれた、国庫による贅沢ぜいたくの品々はすべて没収され、足りない金額は働いて返すことに。


 自分たちが拷問をした人々から、同じ拷問をやり返されるという、きついお仕置きも待っていた。

 その傷も癒やされることはなく、着の身着のままボロボロの二人は辺境へと向かう道中、どこに行っても国民から石や卵を投げつけられる。


 繰り返し行われる見ず知らずの他人からの、暴力と暴言の数々。


 新しい住処の辺境では、生活費を稼ぐことから身の回りの世話まで、全て自分たちでしなければならない。


 横暴な態度を改めない二人は、誰の協力も得られず、孤立無援状態なのだとか。

 毎日、お互いを罵り合って、取っ組み合いのけんかをしながら過ごしているらしい。

 

 仲がいいのは、よきことかな。

 

 そして今、平和になった王国の新たな問題といえば……。


「この国を救ってくれた聖女様となら、是非とも結婚したく存じます。」


 そう国王に進言しているのは、この国の第一騎士団長、リュシアン・ホーフェン(25歳)。

 本当の名はリュシアン・ルーディエンス。現国王の年の離れた弟だった。

 ホーフェンは、母方の姓らしい。


 一人息子の王子が廃嫡になったため、次期国王は弟の彼に決まったのだ。

 国王となるからには、当然伴侶が必要になるわけで……。


 女性不信のシアンが唯一お認めになった生涯の伴侶は、この王国を救った英雄である聖女様。

 そのため国中が一致団結し、花嫁聖女捜しが行われている真っ最中なのである。


 なぜ、探しているのか?

 もちろん、バレていないからである。


 ……俺、頑張ったし!


 聖女に変身して、全てを成し遂げた後。

 残った聖女の力を振り絞り、遠くへ瞬間移動することに成功。

 変身解除がギリギリだったので、マジ危機一髪だった。


 「ピコン……。」


 カラー○イマーの音が止んだ瞬間、無事に元の姿(男)に戻れたのだが。

 あと1秒でも遅ければ、「聖女からの俺」を世にさらすところだった。

 そうなれば……。

 考えただけで、ゾッとする。


 なのに……。

 絶対にバレていないはずなのに……。


 シアンは毎日、俺の元へやって来る。

 そして、毎回、俺を試すように――。


「リオスク?聞いてくれ!……聖女様に私の全てを捧げよう!」


「リオスク?全てを敵に回しても、私だけは……聖女様を絶対に裏切らないと誓うよ!」


「リオスク?私の愛で、……聖女様の全てを満たして差し上げたい!」


「私は、聖女様に永遠の愛を誓うよ!」


 と、プロポーズまがいのことを言ってくるのだ。

 その度に、全身から脂汗が吹き出し、体がガタガタと震え出す。

 照れているのか、「聖女様」のところだけ真っ赤になり、声が極端に小さくなる――十代の思春期か!


 こっちは恐怖でしかないのだが!?


『ヤバイ!俺の貞操の危機!』


 30歳を過ぎた童貞は、魔法使いになれるとは聞いていたが、聖女になるとは聞いてない!

 創造神からは、なぜか結婚祝い(Yes/No枕やきわどい女物の下着?)が毎日のように届く。


 ――創造神よ!ちょっと話があるから降りてこい!――


 窓の外では、今日も聖女をたたえる歌が、夜風に流れている。

 ――バレたら死ぬほど恥ずかしい秘密と、平和な国。

 しばらくは、どちらもしっかりと守るつもりだ。


 



 



 

 

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聖女、3分で退勤します(中身は社畜のおっさん) 蒼月 柚希 @sousou13029

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