ストラディバリウスさん
沙華やや子
ストラディバリウスさん
オレは心の中で彼女をこう呼んでいる。
「ストラディバリウスさん」
ストラディバリウスさんはオレのバイト先に半年前やって来た。
キュッとくびれたウエスト、つややかな肌に明るい笑顔、そして……ひとぎき惚れした 甘い、声。
「ああ、
ここ、『 居酒屋お
「よろしくお願いいたします」ペコリ。愛らしいポニーテールが垂れた……
ドキッ……。ハッとしたな。あの時。とても甘くて優しさのにじみ出た綺麗な声。
オレは彼女を瞬時に『ストラディバリウス』だ! と思ったよ。
なかなかお目にかかれない、魅力的な声を持ったひとだな。
オレの母親は趣味でバイオリンを習っている。「ストラディバリウス、ストラディバリウスッ」て、あはは♪ガキの頃から聞かされてきたよ! どんなにその弦楽器たちが素晴らしいか! どれほどお母さんはそのバイオリンが欲しいか! ってね。毎日母親はCDをかけながら家事をしていたよ。
夕方学校から帰るとクラッシックの爆音が流れてんの。すり込みかも知れないけど……うん、あの音色は、なんというか
魅惑の響きだな。今なら解るよ。
『お家ごはん』てヘンテコな名前のうちの居酒屋は人気店。毎晩お客さんでワイワイガヤガヤ。オレは忙しく動き回るのが好きだから向いてるね、きっと。
ストラディバリウスさんは…… 若干向いてないんじゃないかって初め思った。なんというか、ゆったりしていて。
「雪都さん、ビールが零れそうです!」「え、ええ?!」モタモタ……ゆっくりと恐る恐る生ビールを運ぶストラディバリウスさん。(うわ♡超かわいい。否、仕事だ仕事! アドバイスしなきゃな!)「腕を固定して、まっすぐ歩くことを意識すれば、滅多にビールは零れないよ、泡があるからね」「は、はぃ」自信なさげな所がなんか放っておけないんだよなー。ドキドキ……。
「おはようございまーす! 店長、しお梨さん!」ニッコリ。「おはよう、雪都君」「おはようございます、雪都さん」ニコッ。(キャ♡目がハートになる~!)
「しお梨ちゃん、今日は忙しいよ? 土曜日だから。いつもよりほんのちょっとだけ……ネ、ピッチあげてこ♪」先輩風を吹かせるオレ。
「はい!」と美麗な声で返事をするストラディバリウスさん。(わぁ~今ハープの風が吹きましたかー?)
ああ、先輩風吹かせてたオレが天手古舞だよ。「焼き鳥まだ―!?」つい厨房係に激しく言っちゃう。「順番にやってるから待てよ、雪都!」「わかったよ!」お客さんの楽しく騒ぐ声で、スタッフ同士、自然と大きな声になる。
このバタバタ、ストラディバリウスさん、大丈夫かな~。
え……。
「いいえ! そんな事は致しません!」ス、ストラディバリウスさんの弦が低く唸っている!
「アハハハハ」お客さんは笑ってるな。なんだ?
「おい、雪都、焼き鳥3人前上がったぞ! 早く持ってけ」「あいよ」
「いい加減になさってください。ここはそんなお店じゃありません!」
(これはいけない!)
すぐにしお梨のもとへ駈けつける雪都。
「しお梨ちゃん、どうしたの?」
「およ!? 男は要らねーよ! ねーちゃんが座って酒を注げばいいんだ。な~!」「そうだそうだ。ギャハハハ!」5人組のサラリーマン風の男性客たち。
雪都がお客さんに注意する前に
「お帰り下さい」
と、ス、ストラディバリウスさん。(気持ちはわかるけど、超極端! 店長でもないのに!)しかし……顔を見るとストラディバリウスさんの顔は、いつものおっとりとしたお嬢様ではなかった。
目が炎だった。(こ、こわい! けど……)
偉大!
彼女はやっぱりストラディバリウスさんそのものだった。
ストラディバリウスさん 沙華やや子 @shaka_yayako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます