5.学院
そういえばこの世界のことを覚えてもらうと言われても大したことは教わっていない気がした。
そう言ってみても、教師のアミーナは落ち着かなくうろうろしてるだけで返事は無かった。
「アミーナ、落ち着け、貧乏ゆすりうるさい」
「あんたね、今日は戦闘演習なのよ」
「召喚魔法で現れた人間が、素人だから戦闘演習は延期にしたんだろ」
「そうだけど…」
自分で言ったことを指摘されて、アミーナはしなしなとしおれていった。
意外とメンタルが弱いやつかと思ったが、学院の様子を見ると無理もないと思った。
学院は予想通り、中東系の人種と思われる人間が大多数でそこにアフリカ系、ヨーロッパ系、アジア系のような順番で数が多い。
ちなみに多いと言っても9割は中東系だった。
白人もアミーナ以外だと、筋骨隆々の男が1人いるくらいだった。
今まで差別をされてきて自分に自信が持てなくなっていたのだろう。
そんな子が戦闘演習に引っ張り出されるのも、みんなの期待を反映したわけではなくて固有魔法が手に入ったのだから、恥をかかせてやろうくらいのつもりだろう。
なんとなく察してはいたが、やはり他人種には厳しい世界のようだ。
まあ俺も学院までの間に散々物珍しそうに見られたからな。
これが簡単に差別に変わるのは想像出来る話だった。
「でも、やっぱりユウキの固有魔法を調べるくらいはやっておきましょう」
「明日から休みなんだろ?明日でいいんじゃないか」
「そうだけど…」
(いじめられてるから無理やり戦闘演習に参加させられるかもとは言えないか)
「…昼休みとかに間に合うなら調べるのもありかもな」
「!そうね、そうしましょう!」
花の咲くような笑顔を見せると、アミーナの足取りは軽くなった。
最初は情緒不安定なやつかと思ったが、友達がいなくて距離感が分からないだけなやつだった。
それが分かれば、わりかし単純で付き合いやすいやつだった。
「戦闘演習だけど魔法は通常魔法、固有魔法両方とも使用は許可されてるわ。武器の使用も自由。演習場内には治癒の魔法と防御の魔法がかかっているから全力で戦えるわよ!」
「いや、そんなこと言われても非戦闘民なんだが…」
「固有魔法が強かったらどうしよう…ユウキ早く学院に行って書類作成終わらせちゃいましょう!」
待ちきれない様子でアミーナに急かされる。
嫌々急かされて学院に向かったら10分も経たない内に正門に辿り着いた。
行政府からだと歩けば20分くらいだろうか。
正門にはスコラとだけ書かれていた。
「アミーナひさしぶり、召喚魔法はどうだった?」
「カール…」
「浮かない顔だね、何かあったの?」
「失敗はしてないけど…」
そう言いながらちらちらとアミーナがこちらを見てくる。
仕方なく名乗ることにした。
「初めまして、アミーナに召喚された日本人のサトウユウキです。お見知り置きを。」
「ニホンジン?」
聞き慣れない言葉を聞いたようなカールだったが、挨拶された事に気づいて慌てて挨拶を返してくれた。
「失礼しました、僕はカール、カール・ノースです。よろしくお願いします、ユウキ」
「よろしく、カール」
「カール、ちょっと聞きたいんだけどンガベ先生は今日いらっしゃってる?」
「先生ならさっき出勤してたよ。もしかして固有魔法?」
「そうよ、一昨日召喚魔法に成功したんだけど、まさか人間を召喚する事になるとは思わなかったからいろんなことを説明していたら固有魔法の検査を受けられなかったのよ」
「なるほど、人間を召喚したなんて聞いたことないからね。そういうことなら早く相談した方がいいかもしれないよ。戦闘演習が始まったら先生も忙しくなると思うし」
「え、そうなの?」
「アミーナは戦闘演習に出たことないから知らなかったよね。演習中は不測の事態に備えて、先生がずっと演習場に張り付いているから検査を受けるなら朝から受けた方がいいと思うよ」
「そうなのね聞けてよかった、またね!」
「うん、また後で教室でね」
なにやら2人で分かりあうとアミーナに保健室に連れてこられた。
そのまま断りもなく保健室に入るアミーナだったが、よくあることなのかンガベ先生も苦笑するのみで快く受け入れてくれた。
「ひさしぶりだねアミーナ、召喚魔法はどうやらうまくいったようだね」
「おひさしぶりです、どうして分かったのですか?」
「そこの見慣れない彼が召喚物なのだろう?そうでなければ、わざわざこの時間帯に私を訪ねては来ないだろうしね」
「全部お見通しですね」
アミーナも先生もかなり打ち解けている。
恐らくよくここに通う仲なのだろう。
それはそれとして検査とやらを早く終わらせたかった俺は話に入らせてもらう。
「お初にお目にかかります、アミーナの召喚物サトウユウキです。この度は、固有魔法の検査をしていただけるとのことで何卒よろしくお願いします」
「ははは、アミーナ君の頼みだったらすぐにでも取り掛かるよ、いつまでに終わればいいのかな?」
「戦闘演習が午後にあるので、お昼までにはお願い出来るでしょうか」
「なかなか厳しい注文だね、でも大丈夫。急いで終わらせておくよ」
「先生ありがとうございます」
「うん、とにかくアミーナ君はそろそろ授業が始まるからそろそろ教室に行きなさい」
「はい分かりました、先生」
そういうとアミーナは教室へと向かった。
正直初対面の人と2人でいるのは気まずいが、早く検査を終わらせてしまおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます