4.貴方の名前は
体調が悪いと言って、借りている寝室に戻らせてもらうことにした。
アミーナは心配そうに付いていくと言ってきかなかったので、仕方なく寝室まで案内してもらった。
正直、一人で頭を整理する時間が欲しかったが仕方ない。
そんなことを考えていると、アミーナがコップを取りに行った。
先ほどの話は一体どういうことだろう。
魔法については考えるのをやめた、恐らく考えても仕方がないだろう。
それよりこの世界の名前が地球というのはどういうことだろう。たまたま住んでいた惑星とこの世界の名前が同じだった?
そんなことはまず無いだろう、だとするとこの世界は惑星地球と繋がりがある世界ということになる。
しかし、魔法の存在がどうしても惑星地球を否定する。
魔法とは何なのだろうか。
そんなことを考えていると、アミーナが戻ってきた。
「大丈夫?ゆっくり休んで、召喚なんていきなり巻き込まれて疲れないわけないわよね、ごめんなさい…」
そう言いながら彼女は指先を光らせると、水をコップに注ぎ始める。
しばらく観察していたが、何か仕掛けがあるようには見えない。
思い切って聞いてみることにした。
「これが魔法なのか?どうやって水を取り出しているんだ」
「魔法を見たことないの?どんな世界から来たのよ。水は空気中の水素と酸素を魔力で結合させて取り出すイメージよ」
「は?」
何を言ってるんだこいつはと思った。
見たところ機械の類は、この文明にはほとんど存在しない。
ましてや、元素の存在を知るような精密機器など到底無さそうだった。
どうやって機械無しにその知識にたどり着けるのか。
これこそ転生者のおかげなのだろうか。
そんなことを考えていたら、コップを早く受け取るように急かされた。
「不純物の無いすっきりとした味だ」
「それ褒めてるの?そんなことより、そろそろ貴方の名前を教えて。明日から学院に戻らないといけないから貴方の名前も登録しておくわ」
「学院?何の話だ?」
「学院は学院よ。魔法効率を上げるために、魔法使いは全員そこで魔法訓練と物理を学ぶわ」
「……物理」
言われてみれば簡単な話だった。
いきなり中学理科程度とはいえ、研究が進むわけはない、また実験をするための器具も無いとすれば転生者が知識を持ち込んだのだろう。
100年前の大罪人とかいうやつは、破壊者とも呼ばれていた。
恐らく、こいつが物理を持ち込んで魔法の火力と効率を高めた結果、破壊者とでも呼ばれるようになったのだろう。
自分の中ですっきりとした仮説が出来ると少し気分が軽くなった。
どちらにせよ確認する方法はない、それならそれで受け入れるしかないだろう。
「名前は思い出した?」
「…悪い、別のことを考えていた。俺の名前は佐藤優希だ」
「ユウキね、覚えたわ」
「一応言っておくが、ユウキはファーストネームだぞ」
「知ってるわよ、貴方も私のことファーストネームで呼んでるじゃない」
「やっぱりファーストネームなのか…」
地球との繋がりはもう気にしてもしょうがないだろう。
それよりも学院に通うことの方がめんどくさそうだった。
アミーナ曰く、魔法学院では魔法の研鑽のために戦闘演習がある。
アミーナは通常魔法しか使えなかったため、戦闘演習は免除されていた。
しかし、召喚魔法に耐えるだけの魔力量が身に付いたとして、今年になってついに召喚魔法が解禁された。
そして俺が召喚されて、明日は戦闘演習の日らしい。
みんなが早くアミーナの固有魔法の成果を見たがっているらしい。
それを語っている時のアミーナは、ぎこちない笑みを浮かべていた。
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