3.ここはどこ?
食堂に向かう途中で、ここがどこなのか尋ねると行政府とのことだった。
昨日、召喚儀式を行った部屋は会議室を流用して整えた一時的な儀式の間らしい。
何とも言えない気持ちになったが、召喚魔法の使い手は10年に1人程度しか出てこないらしい。そのような滅多に起きない出来事のために、部屋を一室設けて無駄にするのももったいないと言われれば納得するしかなかった。
ちなみに寝かされた部屋は行政府に訪れる他都市の下級官吏用の部屋だったらしい。
そんなことを聞き流しながら、本題に入った。
「それで、なんでこの世界に召喚されたのか、そして俺に何をさせたいのかそろそろ教えてくれないか」
「……」
顔を伏せるアミーナの表情は読めないが、どことなくそわそわした感じがする。
恐らくだが、人間を召喚することは相当珍しいようで大司教ですら慌てていた。
つまり、狙って召喚出来るものでもないのだろうから目的も何も無いのだろう。
そんなことを考えていると案の定な答えが返ってきた。
「召喚された貴方からすると余りにも無責任な言い方になってしまうけど、人間を召喚したいと思っても出来るものではないの。
召喚魔法自体、使い手は帝国内で10年に1人現れる程度、その中でも人間を召喚した事例は記録に残ってる中でも4人よ。
つまり、たまたま貴方は召喚された、だから召喚した理由も何か指名があるわけでもないの、本当にごめんなさい」
少し震えた声で、アミーナが答える。
予想通りの答えに少し気持ちが軽くなる。
「まあ、そんなもんだよな。
大司教や司祭の反応で大体分かってたよ。
だけど、なんでアミーナは泣いてたんだ?」
「…よく召喚されてすぐにそんなこと考えていたわね。
まあいいけど、それと私が泣いてた事は忘れて」
やっと顔を上げてくれたが、少し睨まれる。
今更だけどきれいな青い瞳をしていると思った。
恐らくこの辺りだと珍しい。
周りを見渡すと黒や茶の瞳や髪を持つ人間が多い。
全体的に地球の中東っぽい感じがする人種構成だった。
アミーナみたいな白肌金髪碧眼は珍しい。
「召喚魔法はね、魔力を帯びた獣を世界に呼び寄せて操る固有魔法。
人間を呼び寄せたのは帝国1200年の歴史でも過去に4人だけ。
その誰もが、帝国史に名前を刻み付けたけれど、100年前に現れた最後の1人、大罪人アージャが多くの民を殺し、都市を滅ぼし、国家を破壊したと言われているわ」
「言われてるって何したか知らないのか」
「名前だけ残されてるのよ、何をしたか、それを記すことすら禁忌にされているわ。
だから、私達には彼女が何をしたのか分からない。
彼女が転生者なのも、召喚魔法を行う前に王立魔法院の魔導士様から初めて教えてもらったのよ」
「……そうか」
とりあえず彼女が本気で言っていることだけは伝わった。
聞き慣れない単語が多いが異世界だと思えば納得だろう。
細かい事は気になるが、全て把握するのは無理がある。
まずは大雑把に世界のことを知る必要があると思い質問を続けた。
世界には魔力が満ちている。
それが何なのか、誰も知らないが魔力は魔法の源である。
魔法は、思い描く現象をこの世に現出させる現象。
イメージが鮮明であればあるほど魔法は強くなる、そして虚無から現象を現出させるより、その場にある物を利用した方が魔力の消費は少ない。
魔法を扱うには、物理法則を勉強し魔力効率を上げるのが常識。
よって魔法学院を設立し、魔法の研鑽機関と高等教育機関を兼ねている。
そして、この世界の名前は地球という。
ふと、花の香りがした。
気を取られて横を見ると、美しいバラの切り花が置かれていた。
「よく花を探しているみたいだけど、貴方も花が好きなの?
私も花が好きよ、特にそこのダマスカスローズは最高よね」
彼女が笑っているのが伝わってくる。
少し心の距離が縮まったのだろう、前のめり気味に話しかけてくる。
何か答えなければと思い、むりやりバラから目を離す。
何を話したかは覚えていない。
いつまでも花の香りは頭に残っていた。
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