きょういくのうた
αβーアルファベーター
(๑╹ω╹๑ )
◇◆◇
「みんな〜、こんにちはぁ!」
画面の中で、まんまるの目をしたウサギのキャラクターが両手を振った。
カラフルな風船、虹色の背景、
幼児向け教育番組『いっしょにまなぼ!』は、今日も明るく始まった。
「さあ、きょうは “いいこ” のおべんきょうだよ!」
ウサギの隣に、ピンク色のネコが跳ねる。音楽が流れ、踊る。
♪ まちがえたら、ごめんなさ〜い
♪ わらってなおせば、いいんだよ〜
圭太(5さい)は笑顔で一緒に歌った。
母は台所で洗い物をしながら、「いい子ね」と声をかけた。
――そこで、歌のテンポが止まった。
「でもねぇ……」
ウサギが、急にぴたりと笑うのをやめた。
「“まちがえるこ” は……だめなんだぁ」
画面の空が灰色に変わり、ネコの口が裂けるように横に広がった。
♪ だめなこ、だめなこ、まちがえちゃだめなこ〜
♪ ぜんぶ ぜんぶ ぜんぶ なおしちゃお〜
ウサギとネコの声は段々と低く、機械のように濁っていく。
カメラがズームしていくと、キャラクターたちの目の奥に、
無数の子どもたちの顔が映っていた。泣いている顔、無表情の顔。
圭太は笑顔を張り付けたまま、
両手をぎこちなく叩き始めた。まるで操られるように。
「まちがえない……ぼく、まちがえない……」
母が駆け寄り、テレビを消そうとリモコンを押した。
しかし画面は消えない。
ウサギが画面いっぱいに顔を押し付け、囁くように笑った。
「おかあさんも、いっしょに……“いいこ”に、なろうね」
母の手からリモコンがすべり落ちた。
圭太が振り返ったその目は、
真っ黒に塗りつぶされ、口からは機械的な歌が漏れていた。
♪ まちがえるのは、だめなこ〜
♪ おとなもみんな、なおすんだよ〜
窓の外を見れば、近所の家々から同じ歌声がこだましていた。
街全体が合唱している。幼児の声で、無数の「だめなこ」の歌が。
母は悲鳴をあげたが、次の瞬間、声が止まった。
――歌声に飲み込まれていった。
翌朝。
どの家のテレビからも、同じ明るい声が流れていた。
「みんな〜、きょうもいっしょに、まちがえない“いいこ”になろうね!」
画面に映る子どもたちは全員、真っ黒な目で笑っていた。
「うわああああああああああああああああ!!」
その瞬間、母は頭が弾けそうと泣き叫ぶ。。
「一生、いいこ。こんな悪い大人死んじゃえ」
テレビから流れてくる声は、もはやこの世のものでは無かった。
そして、母の頭が、一瞬にして弾け飛ぶ。
その時圭太は満面の笑みを浮かべた。
◇◆◇
もはやこれは、凶育。
死んだ母は二度と帰ってこない。
これはそんな教育番組を見た男の子のお話
きょういくのうた αβーアルファベーター @alphado
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