終焉の未来に

焼おにぎり

 

 勇者アンヴェイルドよ、貴殿の望みは何だ。金か、失われた友の命か。

 全知全能の神は言った。

 この世の巨悪を取り払った勇者への報酬として、一つだけ、どんな願いでも叶えてやるという。

 アンヴェイルドは三日三晩悩んだ末、神の御前に再び立った。


「我々人類の辿ってきた歴史の全てが知りたいのです」


 これまで継承されてきた神話や、いまだ解読されていない叙述。それらの真実を白日の下に晒していただきたい。私は、我々が守り続けるべきこの世界の謎を解き明かしたいのです。


 神はうなずき、目を伏せた。


「貴殿に叡智を授けよう」


 その直後、勇者アンヴェイルドは人類史の全てを知った。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊。

 人類の誕生、高度文明の発展、崩壊───


「いったい何なのですか、これは!」


 勇者はよろめき、神に問うた。


「およそ一億年の周期で、貴殿たち人類の歴史は繰り返されている」と神は語る。


 超古代には、現代よりも遥かに高度な科学文明が存在した。その痕跡とみられるものは世界各地に点在し、人々の間では都市伝説となって、まことしやかに囁かれてきた。

 それが、事実であったことが判明した。

 そして同時に、滅亡の歴史を繰り返してきたことも。


「巨悪が消え、世界に平和が訪れた今、人類の技術力は急速な発展を遂げるだろう」


 これまでの人類もそうであったように、と神は続けた。


「これより貴殿らの営みは大きく変化し、新時代へと突入することとなる。しかし、それは歴史を覆すことにはならない。かつて、この飛躍的な進化こそ、滅亡の開始と同義であった」


「その運命は、神のお力をもってしても止めることはできないのですか」と勇者はすがった。

「それはしない」神は首を振った。「貴殿らの営み、その大いなる流れを観測することこそ我の使命である」


 勇者アンヴェイルドは神の御前で座り込み、考えた。神より授けられた真実を世に公表すべきか悩んだのだ。

 

 しかし勇者は、一晩も経たないうちに立ち上がった。


「このことは一般に広く周知されるべきです」

「なぜそう考えた」

「この滅亡の歴史を知った人類は、私たちが初となる。そうですね?」

「左様」と神はうなずいた。

「ならば、これを活用しない手はありません。私は科学者でも歴史学者でもない。今こそ人類の知恵を合わせ、未来の脅威に立ち向かうときです」


 そしてこのことを未来にも伝える努力をする。そうすれば、いずれは終焉をくい止める人類が興るかもしれない。

 勇者は里へと帰還した。人類の力を信じて。

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終焉の未来に 焼おにぎり @baribori

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