第3話

「ねえ、どうしよう?」


俺の巨体を前に、銀髪の美少女剣士リリアは途方に暮れていた。

一緒に旅に出ようと意気込んだはいいものの、肝心の俺が【絶対不動】スキルとかいう迷惑極まりない能力のせいで、地面にがっちり固定されているのだ。


「うーん、うーん……そうだわ!」


何かを閃いたリリアは、自分の剣を鞘から抜き、俺の根本の地面を掘り始めた。

(おいおい、何をする気だ!?)


「地面ごと、あなたを切り出して運べないかと思って!」


(そんな無茶な! 俺はタケノコじゃないんだぞ!)

カン!と硬い音を立てて、リリアの剣が地面に弾かれた。どうやら、俺の周囲の地面も魔法的に固められているらしい。融通が利かないにもほどがある。


「だめ……やっぱり動かせない……。こんなにすごい魔法の道具なのに、森の中に置き去りにするなんて、もったいなさすぎるわ……」


リリアはついに地面にへたり込み、しゅん、と子犬のようにうなだれてしまった。

その姿を見て、俺の心(?)がチクリと痛む。俺のせいで、この子をがっかりさせている。


(……いや、待てよ。こういう時こそ、俺の出番じゃないか)


俺はガチャマシンだ。

そして、ゲームの世界では、行き詰まった時、困難にぶち当たった時、いつだって解決策は一つだった。

(そうだ、ガチャだ! ガチャで現状を打破するんだ!)

問題は、どうやってリリアにそれを伝えるかだ。

俺が「ガチャを回せ!」と念じると、コイン投入口がカチカチと小さな音を立てて明滅し始めた。ささやかな抵抗だ。


「ん? なにかしら、ここ、光ってる……」


幸い、リリアはすぐに気づいてくれた。

彼女は俺のささやかなアピールと、自分の手元に残ったコインを見比べて、ハッとした顔になる。


「そっか……! まだコインは残ってるわ! あなた自身が、あなたを動かすための道具を出してくれるかもしれない!」


(その通りだ、リリア! 君は賢い!)

リリアは希望を取り戻した顔で立ち上がると、残りのコインを握りしめた。

彼女の手元には、まだ55枚のコインがある。


「よし、お願いね!」


リリアはコインを一枚投入し、力強くハンドルを回した。

ゴトン! と音を立てて出てきたのは、白いカプセル。

中身は――。


「『保存用ビスケット』……! お、美味しい! カリカリしてて、ほんのり甘い!……って、今は食料じゃないのよー!」


(だよな! でもまあ、腹が減っては戦はできぬ、だ)

気を取り直して、もう一回。

ゴトン! 今度は透明なカプセル。


「『綺麗な水』……! ごくごく……ぷはーっ! 生き返るわー!……じゃなくて!」


(まあまあ、水分補給も大事だから)

さらに、もう一回。

ゴトン! 緑色のカプセル。


「『N解毒草』……! これは怪我した時に助かるけど……!」


リリアはカプセルを三つ並べて、うーむ、と唸っている。

出てくるのは実用的なアイテムばかりだが、肝心の「移動手段」に結びつくものが出てこない。

(くそっ、この感じ……前世で散々味わった、ピックアップを絶妙にすり抜けていく感覚だ……!)

俺のスキル一覧に【奇跡の排出率】というのがあるが、今のところ奇跡の気配は微塵もない。

リリアもさすがに少し焦り始めたようだ。


「どうしよう、コインがどんどん減っていくわ……。もう、こうなったら!」


ヤケクソになったリリアは、なんと残り全てのコインを両手ですくうと、ジャラジャラとまとめて投入口に流し込もうとした。

(ちょ、おい待て! 乱暴な! ……いや、待てよ? ソシャゲだと『10連ガチャ』はR以上確定とか、ボーナスがあったりする。もしかして……!)

俺が期待の眼差し(?)を向ける中、リリアは40枚以上のコインを無理やり投入した。

すると、今までと明らかに違う現象が起こった。

俺の機体全体が、淡い虹色の光を放ち始めたのだ。

そして、リリアが握ったハンドルが、ズシリと重くなる。


【コインが規定枚数以上、一度に投入されました。ボーナスとして、レアリティR以上のカプセルが1つ確定で排出されます】


頭の中に響き渡る、待ち望んだアナウンス。

(キターーー!! やっぱり10連ボーナスはあったんだ!)


「な、なにこれ!? すごい光……!」


リリアもただならぬ気配を感じ取っている。彼女はゴクリと唾を飲み込むと、ありったけの力を込めて、重くなったハンドルをゆっくりと回した。

――ゴゴゴゴゴゴゴッ……!

地響きのような重々しい音と共に、排出されたのは今までで一番大きな、そして虹色に輝く美しいカプセルだった。

リリアは恐る恐る、しかし期待に満ちた手つきでそのカプセルを拾い上げる。

パカッ、と開けると、中から一枚の羊皮紙と、折りたたまれた金属の塊が出てきた。


「なにかしら、これ……『どこでも設置! 持ち

運び台座』……?」


リリアが羊皮紙――説明書を読み上げる。


「『魔法の力で、どんなに重いものでも赤子の手をひねるように軽々と運べるようになります。この台座に乗せている間、対象の〝動かせない〟という効果は一時的に無効化されます』……」


説明書を最後まで読んだリリアは、カッと目を見開いた。


「こ、これよ! 私たちが探していたものは!」


(やったー! SSR級の当たりじゃないか!)


リリアは大喜びで金属の塊を広げ、説明書通りに組み立てていく。それは前世で見た「キャリーカート」によく似た、頑丈そうな台座だった。

彼女はテコの原理を応用し、近くにあった倒木を使い、悪戦苦闘の末、ついに俺をその台座の上に乗せることに成功した。

そして、リリアが台座の取っ手をそっと握り、引

いてみると――。


「うそ……! 動く! あんなにびくともしなかったのに、指一本で動かせるわ!」


あれだけ俺を苦しめた【絶対不動】スキルが嘘のように、俺は軽々と動き出した。

リリアは歓声をあげ、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねている。


(おお、視界が動くって素晴らしい……! って、俺、これから台車で運ばれるガチャマシンになるのか……。ものすごくシュールな絵面じゃないか?)


まあ、動けないよりは百万倍マシだ。

こうして、俺たちはついに旅の準備を整えた。


「よし、行こう! まずは森を抜けて、一番近い街を目指すわよ!」


リリアは希望に満ちた笑顔で、俺が乗った台座の取っ手を力強く握った。

俺のガチャマシンとしての、そしてリリアの相棒としての、本当の異世界ライフが、今ようやく始まろうとしていた。





【あとがき】

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異世界に転生したらガチャマシンだったんだが、腹ペコ美少女剣士に拾われて相棒になった件 Ruka @Rukaruka9194

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