第33話 祖父とおでかけ

 朝食を食べて、京都府内へ。

 じいさんが新しく出来たという店にじいさんと俺たち兄弟だけで行くことに。

 かなぐりはやることがあるから来られないと言っていた。その代わりと言ってはなんだが、使者が龍牙の監視をしている。


「兄さん走ったら人にぶつかるよ」

 

 あちこち食べ物が売ってあり、この光景をみている兄さんは興奮しっぱなしだった。

 最近までは海外の人が多くいて日本語があまり聞こえてこなかったが、感染病だったり、お国の事情であったりで今は日本人の方が多い。

 そのおかげか道は通りやすく、兄も見つけやすい。

 通りやすくなった分、幽霊やあやかしも多くなっている。

 見えている立場からすれば、人酔いならぬあやかし酔いになってしまうのではないかと思うが、見えていない人たちからすれば人が行き交っているだけだから通りやすくはある。


 まぁ、そんなこと食べ物にしか興味がない兄さんにとっては関係なさそうだけど。

 そんなことを考えながら兄さんがどこにも行かないように手をつないでいると、隣からお腹の鳴る音が聞こえた。

 にいさんかとも思ったが、俺の後ろから聞こえてきたから龍牙からだ。


「お腹空いたのか?」

「ん」


 龍牙がお腹を鳴らすということは、人の食事に興味はないだろうから幽霊関係だろう。

 これだけ幽霊やあやかしがいるのなら、龍牙にとってここは食が集まるお祭りみたいなもの。

 人が多い場所に普段行かない龍牙が行きたがっていたのは、食べられる存在が多く集まる可能性があるからなんだなと思う。

 明らかな悪霊だったらわかるが、地縛霊や浮遊霊なんかも交じっているとどれがいいのかわからないこともある。その判断が出来ないのは困ったところだ。


「いるのか?」

「ん、いっぱいいる」

「なぁ、龍牙。食べる前に教えてくれ。俺じゃどれがいいのか判断がつけられない」

「ん、わかった」


 たぶんだが、龍牙も使者がいるのは分かっている。だから嘘はつかないだろうが、一応あとで聞いてみるか。


「ついたぞ。ここじゃ」


 人だかりを抜けて、ちょっとした小道にはいるとそこにはお団子屋さんがひっそりと立てられていた。

 新しく出来たっていうから現代的な店を想像していたけど、昔ながらというか江戸時代とかに建てられていそうな瓦屋根に、2階には日差しよけのすだれが何枚もかけられている。


「何個かよいのがあるでな。それを買って帰ろうかの」


 じいさんがそういうと兄さんが悲しそうな顔をした。


「もちろん食べてからじゃ」


 その言葉を聞いたら満面の笑みになる。ここまで来てあとは家でなんて食べることを楽しみにしていた兄さんにとっては一瞬の絶望だっただろうな。

 じいさんと兄さんのやりとりをしているところに、後ろから液体が地面に落ちる音が聞こえてくる。まさか勝手に? さっき約束したばかりなのに?

 と思いながら振り向くが、龍牙の手には何も握られていない。となると、上からだ。

 ああ、見たくない。こんだけ霊が見える人間がいれば来るよなとは思っていたが、さすがに早すぎる。


「あれ食べていい?」

 

 龍牙が上を見上げて言った。


「どっち?」

「悪い方」

「ならよし」


 見上げないで済むのは助かる。

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