第12話 灰かぶり姫はパートナーを手に入れる

アシュリンはあの重すぎる『スイカパイ』をどうにか元に戻したい一心で、三度、魔女の小屋へ向かうことになった。

「あのババア!『大きくするのは得意だが、小さくするのは無理』ってどういう理屈よ!私の筋肉は限界だわ!」

怒りに任せて森を走るアシュリンは、もはやアスリートの域を超えていた。その剛健な背筋と巨大なスイカパイは、さながら「動く兵器」である。


​道中、偶然にも、森の奥深くでイノブタラの群れと遭遇。筋肉で鍛え上げられた彼女の身体は、獲物を前に、本能的な殺戮衝動に駆られた。

「逃がさないわ!」

​アシュリンは、その逞しい脚力で瞬く間に群れの先頭に追いつくと、鍛え抜かれた鋼の拳で、一撃。

ドゴォォォォォン!!

一頭のイノブタラが、木っ端微塵...にはならなかったものの、地面に深くめり込み、そのまま絶命した。残りの群れは、その恐ろしすぎる光景に、一目散に逃げ散った。

「やったわ…!私、やったわ!!」

​汗だくのアシュリンは、絶命したイノブタラを見下ろし、閃いた。

「そうか。私は、もう男に頼る必要などないのだ!」

​爆乳好きの狩人シンシアスに嫁がなくても、エドワード王子に頼らなくても、自分のこの強靭なフィジカル(怪力と筋肉)があれば、イノブタラは食べ放題。これが彼女の真の自立だった。

アシュリンは、喜び勇んで獲物を城へと持ち帰ろうとしたが、重すぎる獲物を見て、すぐに気がついた。

「一人で運ぶのは、筋肉にも関わる健康問題だわ!」

彼女は仕方なく、その場でイノブタラ大量狩りを敢行し、その肉を骨と皮を剥がし、自前のナイフでざっくりと切り分けた。

​一方、エドワード王子は、フローラ公爵令嬢の件(『借金返済の略奪愛』の泥沼劇)による失態続きで、ついに国王陛下から王位継承の資格を剥奪されてしまった。


​「ああ、アシュリン…!これで私は、何の価値もない『ただの元王子』だ。君に愛を捧げるだけの財力、地位も、名誉も何もかも失ってしまった…」


​失意のどん底で、彼はアシュリンとの縁もこれで終わりだと嘆き悲しんだ。だが、彼にとって幸いなことに、この『転落』は、アシュリンの心には微塵も響かなかった。


​「殿下、アシュリン様は最近、森の奥に頻繁にいらっしゃるとの噂です…」

​従僕からアシュリンが森で生活しているという情報を得たエドワードは、最後の望みを託して森を訪ねた。

そして、彼は目撃する。

​イノブタラに振り下ろされる、アシュリンの凄まじい鉄拳を。

「フンッ!」

​剛腕から放たれた一撃は、大地を揺らし、獲物は沈黙する。アシュリンの背中には、まるで彫刻のように美しい逆三角形の筋肉が隆起し、巨大な『スイカパイ』は、その鋼の装甲に守られて堂々と鎮座していた。

普通なら、愛する女性が獲物を一撃で屠殺するゴリラのような姿を見て、恋が冷めるはずだ。

​しかし、エドワード王子の愛は違った。

​「ああ…マッスル!なんて力強い!なんて健康的な暴力!このアシュリンこそ、私を拒絶し、私の王子様キャラを否定し続ける、私の運命の女だ!」

彼の歪んだ自己肯定感は、アシュリンの破壊的な強さを、『自分への情熱的な愛の表れ』だと解釈した。エドワードは失意のどん底から、一気に狂気的な熱狂の頂点へと返り咲いた。

​「アシュリン!待ってくれ!」

エドワードが駆け寄った時、アシュリンは、大量に切り分けたイノブタラ肉を、その辺の木の枝に突き刺し、焚き火で焼いていた。

​ジュワジュワ…という音とともに、肉はすぐに炭化した。

「ああ、もう!なんでこうなるの!いつも科学的に味が崩壊する!せっかく自分で獲ったイノブタラなのに…!」

アシュリンは、自分の料理の腕が『破壊活動』しか生み出せないことに、膝を抱えて嘆いた。

その光景を見たエドワードは、ついに覚醒する。

「アシュリン…!君は破壊の天才だ!その神が与えた筋肉を、食材を狩るという高貴な目的に使っている!だが、君の才能は『獲る』までだ…!」

​エドワードは、失った王子の地位や財力など、どうでもよくなっていた。彼には、アシュリンのそばにいるための、唯一の使命が見つかったのだ。

「フフフ…安心したまえ、アシュリン。私は、『粘着質でナルシストな元王子』だが、実は『極めて優秀な料理人』でもあるのだ!」

そう、エドワードは、過去の豪奢な暮らしの中で、世界各国の珍味を味わううちに、いつしか高度な料理の知識と技術を身につけていたのだ。

エドワードは、持参した最低限の調理器具を取り出すと、元王子の優雅な手つきで、イノブタラの肉を瞬く間に捌き、最高の香辛料と塩梅で焼き上げた。

「さあ、アシュリン。召し上がれ。君が力(マッスル)で獲った肉を、私が愛(クッキング)で完成させたのだ!」

アシュリンは、恐る恐るその肉を頬張る。

​「……おいしい!!」

その瞬間、イノブタラ食べ放題という「人生の最重要案件」が、アシュリンの「自分で獲って、王子に調理させる」という新たな形で、完璧に解決したのだった。

「わ、わかったわ!元王子…!貴方を雇ってあげる!」

「エッ!?雇う?」

​「そうよ!貴方は私の専属『肉シェフ』よ!私の強靭な筋肉が獲物を狩り、貴方がそれを健康的に調理する!これぞ、最強にして最愛のパートナーシップだわ!」

エドワード王子は、「未来の夫」ではなく

「専属の料理人」という形で、アシュリンのそばにいることになった。

彼は、もう高価なプレゼントも、王子様キャラも必要ない。ただ、アシュリンの破壊的な食欲と、その筋肉が獲った最高の肉を調理し、「キモッ!!」という言葉の代わりに「おいしい!!」という言葉をもらうことだけが、彼の喜びとなった。

こうして、肉を狩る『フィジカルモンスター』と、粘着質で『ナルシストな料理人』は、森の小屋でイノブタラ食べ放題という最高の平和を享受し、末永く暮らしたのであった。

めでたし めでたし。

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灰かぶり姫は王子様の夢を見ない〜王子様キャラが嫌いなので拒絶したら何故だか溺愛ルートに入りました〜 ふじの白雪 @lavendersblue

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