学歴という制度の機能不全を、物語の駆動力にまで押し上げた社会派SF。壮大な問題提起(学歴と雇用の断絶、評価の不公平、管理職の統治不全)を、政府機関「学歴警察」という設定で可視化し、読者の苛立ちや無力感を「監査」「罰則」「研修」という具体的アクションへ変換していく構図が痛快です。内藤一夜と十六夜千歳の“研修→実戦”の導線は、ドキュメンタリー的な説得力があり、長官室のシーンで一気に「物語が動く」高揚感も生まれています。
■良かった点
問題提起の輪郭が太い:制度と現場のズレを、論旨と設定で二重に描くため、主張が迷子にならない。
ガジェットの具体性:虚偽面接罪/業務外評価規制法/管理職処罰法/評価基準推進法など、読後に残る“記名性”が強い。
キャラクター導入の素直さ:千歳の不安→内藤の応答→長官による承認、という三段運びで読者の感情が乗る。
学歴の高い人材があっても、それを生かせる企業がない――それでは、企業がきちんとその人材を生かせているかどうかを監査しようではないか、という政府の働きにより「学歴警察」が設立された世界。
奇抜な設定から見えて来るのは、現代社会の教育・労働問題に対する鋭い知見でした。
学歴にこだわって採用ばかりしてしまう企業。
会社のためよりも自分の言うことばかり聞かせようとする上司。
就労者の高齢化。
このような問題が重なり、社会が損失を出し続け、どんどんと国力が落ちていく……。
他人事ではない問題の続出に、身の引き締まる思いでした汗
「大きな政府」よりもより強力な政府介入ではありますが、どこかできちんと正さなくては、という想いが伝わってくる、鬼気迫る作品でございます!
世界観の詳細な解説の後、「学歴警察」の二人、一夜と研修生・千歳のやり取りで、より世界観を楽しめることかと思います!