第37話 くんずほぐれつ?
そうしてその部屋を後にした俺たちは、職員になりすましたうえで、堂々と移動を開始する。
他の職員とすれ違った際には頭を下げ、頼まれた荷物の運搬などを行いつつ、奥へ奥へと入っていく。
「それで、ここからどうするの」
とノルネが聞いてくる。
「会場の下に行くには、鍵のかかった扉の奥に行かなきゃみたいだけど」
試合会場のすぐ下は、より厳重な施錠がなされていた。
姿隠しを使ったとて、通り抜けられそうにはなかった。
最悪は壊せるかもしれないが、できれば、安全な方法を取りたい。
ただそれについては、回避方法を知っていた。
俺はノルネとともに、カートを押しながら迷わず進む。
そうして向かったのは、なんの表札もつけられていない部屋だった。
ゲームではこの部屋から、試合会場の下へ向けて、秘密の通路があったのだ。
俺はとりあえずノックをして、中に人がいないことを確認する。
そのうえで中へと入った。
それに続いてノルネも入ってきたのだけれど、すぐに俺の口を手で塞いだ。
‥…いい匂いがする。それに、とても小さい。
そんなことを考えていたら、ノルネは木箱が大量に置かれた部屋をずいずいと奥へ進んでいく。
俺は不思議に思いつつもそれについていけば、そこには人がいた。
それも二人。しかも、服が乱れており、絡み合っている男女が二人。
「あの、これはちょっと……違うんです!」
「えぇ、ちょっとした事故で」
などと、男女二人は慌てた様子で説明をするなか、俺はといえば、とっさにノルネの目元に手を当てる。
推しに見せるには少々、いや、かなりまずい光景だ。
…………これは、あれだ。
前世でもたまにニュースになっていた、職場でいたしちゃうあれだ。
俺が勤めていた男まみれの職場では起きるわけもなく、中にはこうした事例を「羨ましい」なんて言っている抉らせ人間もいたが、現実に見ればなんというか、おぞましい。
そして、こんなものをノルネに見せたことが許せない。
それで俺が怒りを募らせていたら、
「やめなさい」
と、ノルネが俺に言う。
たぶん、心が読めるから、俺の怒りが伝わったのだろう。
それで俺はとりあえず、
「なにも見てませんよ」
と、彼らに笑いかける。
すると二人は謎の笑いを漏らしながら慌てて服のボタンを止め始めて、箱に足を引っ掛けるなどしながら部屋の外へと出ていく。
残された俺とノルネに流れるのは、当然ながら、妙な空気だ。
物理的にも、人肌から発される汗やな油の匂いが残っており、なんともいえない気分になる。
それで俺がなにもいえないでいたら、
「……あれが、大人の営み?」
ノルネがなかなかなことを言う。
いや、そうなんだけど、あれが正しい営みかといえばまったくだし、なんと表したらいいものか。
「うーん、まぁそうかもしれないけど」
俺は答えを濁しつつ、とりあえず部屋の扉に鍵をかける。
「まぁ、結果的にはなんにも疑われずに去ってくれたしよかったよ」
それでこう話を逸らしたところ、
「……そうね」
と、ノルネもそれに乗ってくれた。
俺はその後、天井を見上げて、点検口を探す。
なぜかといえば、その点検口からならば、奥へ行けるからだ。
「ほんと。よく思いつくわね?」
「あーえっと、まぁ、知り合いに聞いたことがあったからね」
ノルネの追求に、俺はこう咄嗟に口にする。
そうしつつふと思うのは、こういうのも嘘だとバレているのでは? ということだ。
ノルネは、人の心が少しばかり読める。
その範疇がどの程度か、俺には分からないが、ありえない話ではないーーなんて。
いろいろなことを考えながら、俺は天井へ向けて、木箱を積み上げていく。
ノルネもそれを手伝ってくれて、順調に天井に近い高さになる。
「私が先に行くわよ」
それで、体重の軽いノルネが先に登って行ったのだけれど、途中でぐらりと彼女が足をかけていた木箱のバランスが崩れた。
「ノル!」
俺はとっさにノルネの真下に入り、まずは彼女を受け止め、自分の身を返して、彼女をおおう。
すぐあとから木箱が落ちてくるのは、見えていないがわかっていたから、俺はそこで瞬時に、『魔力防御』スキルを発動する。
痛みは襲って来なかった。
どうやら防御魔法はうまく、木箱を弾いてくれたらしい。
俺はほっと息をつきつつ、「大丈夫か?」とノルネに確認する。
すると彼女はなぜか顔を少し背ける。
そのうえで出てきたセリフはといえばーー
「……なんだか、さっきの二人みたいね」
という一言だった。
たしかに服はとっさのことではだけているし、押し倒したみたいな格好だけども!
断じて、こんなところで手を出すつもりはない。
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資格試験の勉強に追い立てられておりまして、更新滞りました( ; ; )
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