告白の練習相手になってとクラスメイトの女の子にお願いされたんだけど、練習の割には随分真に迫ってるね?

間咲正樹

告白の練習相手になってとクラスメイトの女の子にお願いされたんだけど、練習の割には随分真に迫ってるね?

「あ、あの、岡本おかもとくん、ちょっと今いいかな!」

「え?」


 とある放課後、僕がいつも通り一人で帰っていると、突然クラスメイトの小西こにしさんから声を掛けられた。

 はて?

 僕なんかに何の用だろう?


「うん、いいけど。どうかした?」

「あ、あのね……、岡本くんに、折り入ってお願いが……」

「?」


 お願い?




「……実は私ね、好きな人がいるんだ」

「――!」


 わーお。

 あれから二人で人気のない小さな公園のベンチに移動したのだが、まさかの恋愛相談だったとは。

 小西さんはもじもじしながら顔を真っ赤にして俯いている(正直ちょっと可愛い)。

 でも、よりにもよってなんで僕なんかに?

 僕なんてクラスでも目立たない超地味な存在だし、恥ずかしながらこの年まで一度も彼女がいたことないってのに。


「……なるほどね、でもそういう相談は、足立あだちさんとかにでもしたほうがいいんじゃないかな?」


 足立さんは我がクラスの姉御的な存在で、結構いろんな女子の恋愛相談にも乗ってるって聞いたことがある。

 相談相手としては僕より余程適任だろう。


「違うの! こ、これはね、岡本くんにしか相談できないことなの……」

「……?」


 どゆこと?


「……岡本くんにはね……、私の告白の練習相手になってほしいのッ!」

「――!!」


 わーお(天丼)。




「じゃ、じゃあいくね」

「うん、いつでもいいよ」


 僕と小西さんは、互いに向き合って立っている。

 シチュエーションとしては、放課後に小西さんの好きな人を体育館裏に呼び出したとか、そんな感じだ。

 ベタ中のベタな設定だが、あくまで練習なんだから、その辺はまあいいだろう。

 それにしても、告白の練習相手になってほしいとは。

 確かに自分で言うのも何だが、それなら僕程うってつけな人材はいないだろう。

 何せ前述の通り僕は超地味な存在!

 僕が相手であれば、小西さんも緊張せず練習できるはず!

 ……フフ、自分で言ってて悲しくなってきたが、こんな僕でも小西さんの役に立てるというなら、喜んでこの身を捧げようじゃないか。


「……岡本くん」

「――!」


 その時、小西さんの纏う空気が、ピンと張り詰まったのを感じた。

 く、くるか……?


「――好きです」

「っ!」


 小西さんは目元に薄っすらと涙を浮かべながら、それでも真っ直ぐ僕の目を見ながらそう言った。

 ……お、おぉ。

 とても練習とは思えないくらいの迫力だな。


「ずっと、ずっと好きだったんです、岡本くんのことが」

「あ……、うん」


 う、うわあああああ、恥ずうううううううう。

 これ思ってたより結構クるね!?

 小西さんみたいな可愛い女の子からこんな風に告白されるなんて、練習とはいえドキドキしちゃうよ……。


「……高校生になって最初に隣の席になって、数学が苦手な私に、一生懸命数学を教えてくれたよね」

「ん?」


 あれ?

 まだ練習は続いてるの?

 ま、まあ、それは別にいいんだけど、そのエピソードは僕とのやつだよね?

 練習なら僕のじゃなくて、小西さんの好きな人とのエピソードを言ったほうがいいんじゃ……。


「私料理が凄い苦手で、調理実習の時に作った石炭みたいになっちゃったチャーハンを、美味しい美味しいって言いながら食べてくれたり……」


 あ、ああ、あったねそんなことも。

 でもあれ、案外見た目程マズくはなかったよ?


「体育祭の借り物競争で私を選んでくれた時は……嬉しかったなぁ」

「いや、うん、まあ」


 あの時は確か、『仲の良い異性』ってお題だったんだよな。

 そんなの僕には小西さんしかいなかったし、実質一択だったんだけど。


「私ね、岡本くんとだったら、幸せな家庭を築けると思ってるの」

「幸せな家庭!?!?」


 随分話が飛んだね!?!?

 付き合う前からそういうこと言っちゃうんだ!?


「だから私と――付き合ってください」

「――!」


 小西さんは耳まで真っ赤にして、プルプルしながら僕に頭を下げた。

 ――いや正直滅茶苦茶可愛いんだが!!

 さっきまでは何とか自分の気持ちから目を背けてたけど、今になって小西さんが好きな男に対しての嫉妬の炎が抑えられなくなってきたんだが……!


「ど、どうだったかな? 今の告白?」

「――え」


 小西さんが不安げな表情で、上目遣いを向けてきた。

 ……くっ!


「う、うん、まあ、凄くよかったと思うよ。……今の感じなら、きっと告白も成功するんじゃないかな」

「ホントにッ!」


 途端、曇天からパアッと光が射したかの如く、小西さんの顔が晴れた。

 ……あぁ、そんな顔されちゃ、僕にはもう何も言えないよ。


「ありがとう岡本くん! お陰で私、勇気出たよ!」

「そう、それは何よりだよ」


 ……さようなら、僕の初恋。


「……で、では、今から本番、いきます」

「…………ん?」


 本番?


「……岡本くん、わ、私、ずっと前から岡本くんのこと――」

「――!!」


 小西さんは震え声で、もじもじしながら『本番』を始めたのだった――。


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告白の練習相手になってとクラスメイトの女の子にお願いされたんだけど、練習の割には随分真に迫ってるね? 間咲正樹 @masaki69masaki

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