お袋が叔父さんと再婚!? 親父の亡霊が復讐しろとうるさいです(4)

 おっさんは色々な意味で悶々としていた。

 まずは、あの他でもない、


【王位簒奪の代償】叔父は甥の熱掌に翻弄される〜王都エルシノアの背徳の夜


 のことである。

 うっかりVTuberたちからの、


『あの手の小説の投稿は"小説投稿サービス"一択』


 と、いう言葉通りに女性向けWeb小説投稿プラットフォーム、ゼータビレッジにアカウントを作成。ここで本名を出したくないので、ペンネームとして、嫁の名前――アン・ハサウェイを使ってBL小説を投稿し始めたのだが……



「こ、これは……いくらなんでも楽しすぎます!」


 そりゃそうである。

 おっさんは過去にこっそりと男性宛てのポエムだの、大っぴらには男女入れ替わりがテーマの芝居を書くことで、人には言えない欲求を満たしていた。


 しかしこの時代では堂々と、それも本名を使うことなく全世界へ向けて自分のフェチを発表できる。自分以外の投稿者たちも、もちろん偽名。さらには性別を偽ってもバレることがない。

 まさに自分の創作の"異性装、入れ替わり"を地でゆく背徳感。


 その上、自分の作品への感想や評価、運が良ければ他人へもおすすめしたい。と、レビューまで書いていただけるのだ。

 芝居の公演では観客のリアクションは曖昧なのに、はっきりと言語化された反応が即時におっさんの目に入る。


 やる気をここまでかき立てられるとは、予想だにしていなかった。

 さらには、どの程度評価されているのかも丸わかりだ。


『王位簒奪の代償』は日間ランキングに掲載されている上に、ページビューがうなぎ登り。

 熱心なファンが存在するようで、更新のたびに熱い感想も送られてくる。


 嬉しい限りではないか。ホクホク。

 おっさんの頬がゆるむ。



 しかしおっさんにはひとつ、不可解なことがあった。


『性別を偽ってもバレることがない』


 本当にそうなのだろうか?

 この時代、この世界。いくらなんでも性別を詐称しすぎなのではないだろうか? おそらくそれに最適化された技術が使われているのだが、


 役者でもあり、監督として劇団采配をしていたおっさんには丸わかりだ。あの動く絵と微妙な声でごまかせても、口調や使う言葉のクセはごまかせない。


 つまりは、


 ベアトリス、ヴァイオラ、フランス£ベーコン、ヘンリーXほにゃらら世――



 全員見た目と中身の性別が逆ということに、おっさんはちゃんと気がついているのだ。



※※※


――待ってた


――今回で完結?


――楽しみ



『玉座の前にどこかで見たような、若い男が入って来た。


「たのもー、たのもー」


「えっ誰!?」


「誰って、俺やねん。レアティーズや、王様記憶力悪っ」


「なんかフランスなまりになってて誰かと思った」』



――これがフランスなまり!?


――エセ関西弁だなwww


――おっさんは関西弁知らんから、イメージだけで書いてるな



『「それな。長いあいだあっちに行ってたからそりゃ言葉も変わってるやろ。てか親父死んだってホンマかい!!」


「はい」



 その時、部屋にオフィーリアが現れる。


「(歌詞のため書けません)」


「ど、どないしたん? オフィーリア!?」


「(歌詞のため書けません)」


「ま、まさかこんなんなってまうとは、信じられへん。ほらオフィーリア、お前の好きな美しい男同士の絡みやで」


 レアティーズはふところから、BL同人グッズのポストカードを取り出すと、二次元のイケメンたちが絡み合うイラストを見せたが、オフィーリアは無反応である。


「ええっ、なんでや!」』



――そのグッズどこからw


――間違いなくオフィーリアの部屋だな



『「(歌詞のため書けません)」


「あ〜、許さへん、許さへんで!! 何もかも親父が殺されたストレスやないか!」


 レアティーズは怒り狂い、血圧が上がっていた。

 そこにすかさずクローディアス王は提案する。



「うむ、そのレアティーズ君の許せない思い、私と共に晴らそうではないか……?」


「どういうことやねん?」


 王はレアティーズへと耳打ちする。


ひそひそひそ……』



――国王悪いな


――もうそろマジで終盤だな



◆◆◆


『「デンマークに戻ってきたのは良いけど、こんな裏口からこっそり入るのもアレなんだよな。お尋ね者感すごいわ」


 ハムレットは墓場をふらふらしていた。さすがにもうスク水とランドセルはやめており、今は毛玉だらけのウィッテンベルク大学の指定ジャージに、クロックスを履いていた。』



――大学のジャージかよw


――俺もジャージ寝間着ねまきにしてたわ


――知ってるのは統合後だが懐かしいのう、אアレフ



『何か墓場の奥から作業している物音が聞こえた。



「えっほ、えっほ」


「誰か墓掘ってるな……いったい誰の墓なんだ?」


「えっほ、えっほ、オフィーリアさんの墓ですね」



「ええっ、オフィーリアが死んだ!!?」


 にわかには信じられない。ちょっと前に"強引なツボ"のカードを突き返して来たばかりなのに……


 その時誰かがやってきた。ハムレットはお尋ね者なので身を隠していると、レアティーズが物陰からあらわれたではないか。』



――ここでレアティーズ来た


――おこれレアティーズ


――このウジ虫ハムレット!



『「ダーーイビン!!!」


 !!?


 レアティーズは墓の穴に飛び込んだ。



「なんでや! まだオフィーリアの死体に土かけるんやないで! まだや! まだかけるんやないで!!」



 ……いつの間に留学先のパリから帰国したのだ? えっ、あんな妹想いのキャラだったのか? それに、彼になまりなんてあったっけ?


「ハムレットが全ての元凶なんや! 」


 レアティーズのどデカイ声がひびきわたる。


 なんか俺より目立ってるじゃないか。クッソ、誰が主役か思い知らせてやる。


「偉そうに……! おめーだけが悲劇のキャラかよ。俺も入るぜ、ダーーイビン!!」



 ハムレットは墓に飛び込むと同時に、レアティーズへとダイビングクロスチョップを放つ。


「んぐっ……!!」』



――プロレスw



『レアティーズは喉に一撃受けて、苦しそうによろめいたが、怒りに燃える目を王子に向けた。


「てめーのせいで親父も妹も死んだんや! 許さへん!!」


「偉そうに兄貴ヅラしやがって! おめーが四万人に分裂しても俺のが強えんだぞ!!」



バキッ! ボコッ!

ボカ! ガッシ!



 ハムレット達は墓穴の中、素手で殴り合った……奇妙な程、健全な時間だった。

 善も悪もない。



「やめて! やめなさい!! 二人ともやめなさーーい! ストップ!」』



――国王


――真のすべての元凶きた



『「「陛下!」」


「お疲れ様ハムレット、デンマークへおかえりなさい」


「ただいま、叔父さん」



 叔父さんは俺を殺そうとしたくせに、いまさら白々しいわ。

 そう思いながらも、ハムレットは退場する。



「安心しなさいレアティーズくん、君の復讐の機会はもうすぐだ……」』



◆◆◆


『「と、いうわけでこれから剣術試合を始めるね」



 赤コーナーでは大学のジャージを着たハムレットが、エルシノア兼定かねさだを握り、セコンドのホレイショと話をしている。


「陛下はこの試合で賭けをしているらしい、しかも君が敗北する方にだ。資金洗浄マネーロンダリング……もとい私的財産をかなり投入してるらしいから、殺す気満々だぞ? 本当に大丈夫なのか?」


 しかしハムレットは無言のままだ。』



――マネロンw


――タイーホ


――一発実刑だろこれは



『青コーナーではレアティーズが、エルシノアごうを片手にたたずんでいた。


 陛下の作戦通りに動いているが……俺は本当に家族の復讐を果たせるんやろか?


 このエルシノア江に塗られた、ネットでお話しできない毒で、何とかハムレットを仕留めなくてはならない。



「じゃあ試合始めてね」


「がんばれー」


 王と王妃の見守る中、ハムレットとレアティーズは一礼し試合を開始する。



 エルシノア兼定とエルシノア江は、火花を散らしながら遠ざかりまた近づきつつ、ハムレットたちの呼吸を早めてゆく。


 心ははやるが今はその時ではない。レアティーズの頬をエルシノア兼定の刃がかすめると、赤い筋が描かれる。

 だがハムレットの肌をエルシノア江も裂く。


 やったか?』



――この人の配信にしては真面目なトーン


――やれば出来んじゃん



『そのとき、


「あれれ、なんか美味しそうなジュース。いっただきまーす」


「えっ、ああっ、王妃!?」


「……っ!」



 そう、王妃が飲んだエナドリには毒が入っていたのだ。



からーん


 ハムレットはレアティーズの動揺を見逃さず、彼の取り落としたエルシノア江を拾い上げ彼を切りつける。



「ごめんー、ハムレット。国王陛下がお前を殺すって。私の飲んだジュースに毒入ってたみたい、苦しい〜、で、レアティーズの剣には毒塗ってあって何があっても、必ず死なすっぽい……バタッ」


 王妃は力尽きた。』



――死んだ


――死んだ


――死んだ


――ママ死んだな



『「王妃ーッ!!」


 王は駆け寄るが彼女は、こと切れていた。



「年貢の納め時ですよ、叔父上」


「おのれハムレット! で、でもお前にも毒が回っているはずだよー」



 しかしその頃レアティーズの体にも毒が回り始め、苦しみ出した。



「んぐぐぐ……陛下、作戦失敗やねん。まあハムレットにはそのうち毒が回って彼も……うぐっ、バタッ」



 クローディアスはレアティーズのなきがらを見ながらハムレットに言い放つ。


「お、おれの勝ちだよ! お前負けーっ、んは、んははは!」


「うるせー!!!  誰のせいだよ! お前だッーーー!」



 ハムレットは絶叫すると王の体を、エルシノア江で貫いた。


「ついでにこれも飲めッ」


 王妃が飲んでしまったエナドリも、無理やり王の口に注ぎ込む。


 王は既に深手を追っていたので、抵抗することもできずにエナドリを飲み込んだ。』



――解決


――解決解決したな


――これでエンディングか?



『そしてハムレット自身にも毒が回ってきたのか、目がかすみ始めた……



「それにしても、この話に出てくる毒、リアリティ皆無なんだよな……さすがネットでは話せな……」


「ハムレット!!!」


「ホレイショ……お前か、もうお前の姿も、ううっ、俺の頼みを聞いてくれるか……」


「そろそろこの話も終わりだし、聞くよハムレット」


「とりあえず、俺がやってきたことはスク水含めて間違いじゃない。後世まで伝えてくれ……」


「安心してくれ、これは全世界へ配信されているし、アーカイブとしても残る」


「それと」


「ん? それとどうしたのだハムレット」


「あのノルウェーの王子、フォーティンブラスという『おとこ』に俺はこの国の命運を任せる……ガクッ」


 ハムレットは力尽きた。


「たしかに聞き入れた、任せてくれ!」』



――誰だっけフォーティンブラス


――なんか初期から出てね?


――存在感


――であるから、デンマーク王はノルウェー王を兼ねると言ったであろう



『にわかに城が騒がしくなる。

 そこに立派な鎧を身につけたノルウェーの王子……くだんのフォーティンブラスが現れたからだ。


「あれっ、なんかみんな死んでる!!?」


「フォーティンブラス様、それについては過去ログをご覧下さい。ハムレット王子は貴方にこの国の王位を委ねるとのことです」


 ホレイショがハムレットの遺言を告げると、フォーティンブラスは神妙な面持ちでそれを聞き入れた。


「了承した。つつしんでその役目お受けしよう」



 だがその時……


「待ちなさい!」』


――!?


――ええっ!


――ちょ



『「「!!?」」


 一同は固まった。

 そこには服に土ぼこりの付着した、ぱっとしない少女がいたのだ。


「えっ、オフィーリア!!? って、貴女生きてたんですか!?」


「勝手に私のこと殺さないでくれるかしら? 推しのコンテンツが終わる前に死ねるわけないでしょ。そしてなんか土かけられたし、酷い目にあったけど」


「「えぇ……」」



「今後は貴方とフォーティンブラス王で妄想します!」』



――終わった


――乙!


――乙カレー


――大儀であった、後に褒美を取らすぞ



△▽△


【王位簒奪の代償】叔父は甥の熱掌に翻弄される〜王都エルシノアの背徳の夜


 作:アン・ハサウェイ(本物)



 茜色に燃える水平線に向かい、一隻のカラック船がゆっくりと、波を割りながら進む。

 規則的な波の音と、帆を膨らませる穏やかな風は、彼の頬を撫で黄金きん色の髪を乱している。


「――良かったのか、本当に?」


「俺は貴方を裏切ることが出来ない」


 船は白い崖の島、彼らの楽園を目指し北海を滑る。


 船員たちも今は休息をとっているのか、甲板には二人きりだ。



「愛している、叔父上」


 ハムレットとクローディアスの眼差しと眼差し、唇と唇が重なった。


 そして凪の夕べは背徳の夜へと更けてゆく――



(おしまい)



 アン(本物)です♡


 今までご愛読ありがとうございました⸜(*ˊᵕˋ*)⸝‬


 沢山応援のメッセージもいただいて感謝感激。執筆中は心折れそうな時もあったんですけど、皆様の励ましを胸にここまで来られました!


 予想通りか分かりませんが、とりあえず? は、ハッピーエンド! を迎えられて良かったです。


 これからも投稿を続けますので、期待に添えるように頑張ります。


。・:*:・(*´ー`*人)。・:*:・ヨロシクネ♪


△▽△



「――れ、連載終わった」


 彼女はしばらくロスに苛まれることとなる……?

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シェイクスピアおじさん、AIでリメイクした自作をイケボと顔出しで配信中だけど、本当はBL作家になりたいんです 雀ヶ森 惠 @_dying_chicken

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