硝子越しの夢

@SapphireQuill

第1話

煌めくステージ。女の子なら一度は憧れる眩しくて輝いていて素敵な世界。

早珠原透葵(そうじゅはらとうき)もその1人だった。珍しい名前を持ち、偏見の中でも咲き誇る葵のように。優しく真面目で努力家。 憧れに近づく為に幼い頃から努力を重ね続けた。そして彼女は高校を辞めてまで手に入れた切符を持つ。


アイドルオーディション番組「Starlight Gate」への切符。


しかし現実はそう甘くはなかった。Fクラス。血のにじむような努力はその4文字で表され、上位クラスの女子からは下に見られていた。

しかも何故か彼女だけ厳しい言葉を浴びせられる。涙をこらえ、厳しい審査を潜り抜けとうとう最終審査へ。審査を乗り越える度に審査員からも優しい言葉を掛けられることが多くなり、上位クラスの女子も対応を改め、そんな姿に胸打たれた者も。「透葵ちゃんみたいなアイドルになりたい」「まだ生きるんだ。」そう決めたファンがいた。


そして迎えた最終審査。誰が見ても素晴らしいステージであり、彼女もデビューはほぼ確実。そう誰もが思っていた。順位発表。彼女の名前は____圏外だった。最終審査順位は最下位。絶望する彼女と彼女のファン、彼女と一緒にデビューできると信じていた者に告げられる一言。


「華がない。君は世界に煌めきを届けられない。」


その言葉を聞いた刹那、彼女の体からは力が抜け床に伏せた。今まで一緒だった如月結衣(きさらぎゆい)が駆け寄る。順位は1つ上だったものの彼女もデビューできなかった。大事な友人に駆け寄ったものの、彼女は目を覚ます事はなかった。


この惨状を見ていた視聴者が番組にクレームを入れた。それも多数。透葵のファンだけでなく、別の候補生のファンも入れており謝罪会見を行った。デビューしたグループも3年で解散。個人活動はしているが、再契約はなかった。


場面は変わり、白くて静かな病室。そんな世間の喧騒から離れた場所に透葵はいた。やつれており、目から光がなくなり、生きる為に最低限のことしか出来なくなった。話す事もままならなくなり、まともに話ができたのは主治医の青木と友人の如月結衣、たった2人だけ。


結衣は透葵の健康を一番に考え、ずっと一緒にいた。しかし彼女も先のオーディションで心を蝕まれており、また透葵の事を救えなかった事を心に抱えていた。ある日の事だ。


「透葵ちゃん、みてて。」


結衣は病室の窓から飛び降りて、一足先に天使へ堕ちた。




1人になってしまった透葵は心を閉ざしてしまったが、退院するまで精神が安定した。喫茶店など落ち着く場所に足を運ぶ事を日課にしていた。当時貰った手紙。結衣とお揃いのお守り。グループ審査で一緒になった子との写真。いつの日からか見ても何も感じなくなり、ただ日々が過ぎるのを待っていた。



三十を超えたある日、彼女は姿を消した。どこに行ったのか、何をしているのかはもう誰も分からない。


一つ分かることは、最後に彼女の姿が目撃された海岸にお守りと彼女が大切に保管していた「Starlight Gate」の共通制服だけが残っていた。それだけしか分からなかった。

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