第6話 衝動と衝撃

 硬い床で凝り固まった身体は血流が全体的に悪くなっているが、或る一箇所に血液が留まっているのが原因なのかは判らない。取り敢えず元気なんだろう。

「起きなさい!はやく!」

エル板は朝支度を終え、白いドレスはフリフリでその無垢さと幼稚さを際立たせている。小さいものをみると小さくなったので全身に血液が巡り、身体が起きてきた。今日は一回戦と聞いている。相手は褐色のおっぱいに従う男。羨ましい限りである。自分は性欲を放って闘うだけだ。


 会場にあるおっぱいの房数は少なく、静まり返っている。エルはその胸の薄さと同じく人望も薄いので周囲から期待されていない。吸い込める気体も比較的少ない。相対する男は道着を着て正拳突きの素振りを繰り返し汗をまき散らしている。隆起した筋肉は武道を往く人生を表し、突き出される拳は実直な人生を体現している。


 闘技場の中心にて、開始の鐘を待っていると格闘家が話し掛けてきた。

「自分は武道に生き、その他一切を眼中に捉えず一心に武道を歩んできた。道を歩む自分にとって貴君のような素人に先手を取る事は許されず、よって先に攻撃してこい」


 鐘が鳴る。目を閉じる。脳裏によぎるは無数のおっぱい。タマッテキタ。両腕が脈打つ。反り立ってきた両腕の先は格闘家に向く。眼前の格闘家は腕を組みその初撃を待っている。瞼の裏に映し出された両手の先には丸い優しさが二つ。指先はその優しさを求めて沈んでいく。沈んでいく、沈ん、あっイク。


 意図せず放出された液体は格闘家の膝下に掛かったが、意図せず出したので爆発は起きなかった。

「これがお前の攻撃か?」声が震えている。

「これがお前の攻撃なのか?」額には青筋が浮かぶ。

「これがお前の攻撃かと訊いている!!!」怒声は反響する。

威勢にヤラれ反射的に頷いてしまった。


「……、敵に情けをかけられたのも、情けないものをかけられたのも初めてだ!!!!!」

 彼は怒りのまま身体を半身にして左足が俺と垂直に差し出される。先程まで視線の奥、顔があった位置には背景がある。急速に背景が遠ざかるのを認識すると共に腹部に鈍重な衝撃が走る。遠ざかる背景に格闘家が拳を突き出しているのが映る。意識が遠ざかる。屈曲した身体が宙に浮いている。ついさっきまで脳裏にあったおっぱいは走馬燈として再度思い出される。時の流れが遅くなる。これが死か。浮遊する感覚は精神が離れゆくことを想起させ、一撃の衝撃は魂を分離させるには充分だった。今はこの浮遊感を味わうしか選択肢はなかった。

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リビドーの聖戦 曖惰 真実 @aidamakoto

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