追憶の生

@fuluki_toru

追憶の生


空のペットボトルを潰す

気が付いたら

喉仏に親指が重なっている

皮膚の下が脈打つ


断絶された蝶の身体

プラスチックの管

体液が身体の間を行き交う

何を見つめているのだろう


駅のホーム

雑踏

エスカレーター

階段

行き交う人々

存在がかすんでいく

なにも聞こえない


下りのエスカレーター

段から足を踏み外す

目の前がコマ送りで通り過ぎ

白いワンピースが舞った

そのまま落ちてもいいと思った

手摺を掴むじぶんがいた


誰かへの線香が薫る

耳をつんざく蝉の声

へばりつく衣服

汗の一筋が唯一わたしの身体をふちどる


木漏れ日の差す幹

苔が息づく

草々は背伸びをしている

眩んだその時、陽炎と目があう


湿った土はどこか生ぬるくて

木を燃やす匂いが

身体を包み込む


腐った木の根

ミミズ

雀のくちばし

鼠のしっぽ


いつかわたしはそこにいた


蝶々は

自分の行く末を知らず

はばたいた


蟻がわたしの脚を這う

ひたすらに足は進む

いつかわたしはそこにいた

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