おやすみママとぼくら

霜月あかり

おやすみママとぼくら

ある平日の朝。リビングのカレンダーから、不思議な声が聞こえてきました。


「今日は“主婦休みの日”! ママは一日お休み!」


カレンダーから小さな妖精がひらりと飛び出し、ママの肩にとまりました。


「えっ、ほんとに?」ママが笑うと、妖精はにっこりしてうなずきました。「今日は全部お休み。家事も育児も、ぜーんぶおまかせ!」


ママは驚きながらも、そっとため息をついて微笑みました。「……じゃあ、ちょっとだけ甘えちゃおうかな」


朝から家は大混乱です。


パパはネクタイを締めながら冷蔵庫を開けて叫びます。「えーと……朝ごはんは? 弁当は?!」


幼稚園に行くお姉ちゃんは、リュックを背負って泣きそうな顔。「水筒もハンカチも、用意できてない!」


弟はというと、リビングの真ん中でおもちゃをひっくり返し、「おなかすいたー!」とごろごろ転がっています。


パパはパンを焼こうとして焦がしそうになり、慌ててスープを作りますが――「よし、これで……あっ!」塩をどさっと入れすぎてしまいました。


「うわっ、しょっぱ……。ママって毎日こんなことを……」額の汗をぬぐいながら、ぽつりとつぶやきます。


一方そのころ、ママはソファで雑誌をめくりながら、子どもたちの笑い声やパタパタ走る音を聞いていました。「ふふ……ちょっと心配だけど、でも今日は任せてみよう」心の中でそうつぶやき、ひとときの休息を味わいます。


夕方、幼稚園から帰ってきたお姉ちゃんが玄関を開けると――。部屋は散らかり放題、弟はまだパジャマ姿。パパは洗濯物の山を前に頭をかかえています。


「どうしよう……」とつぶやくパパに、子どもたちも不安そう。


そのとき、ママがそっと立ち上がりました。「ねえ、大丈夫よ。大切なのは、全部をひとりで背負うんじゃなくて、みんなで力を合わせること」


お姉ちゃんはうなずき、洗濯物をたたみ始めます。弟も「おもちゃ、かたづけるー!」と小さな手で動き出しました。パパも「よし、夕ごはんはぼくに任せて!」と台所へ。


ぎこちないけれど、それぞれができることを分け合い、少しずつ家の中が整っていきました。


その夜の食卓には、形のいびつなおにぎりと、ちょっとしょっぱい味噌汁。でも、みんなで協力して作ったごはんは、なんだか特別においしく感じます。


「ママ、いつもありがとう」「これからは、みんなでやろうね」


ママは少し目を潤ませながら、にっこり笑いました。「ありがとう。みんながいてくれて、ほんとうにうれしいよ」


カレンダーの妖精はその光景を見届けると、満足そうにうなずき、日付の中へひらりと帰っていきました。

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おやすみママとぼくら 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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