第3話「不機嫌日和」




「いやぁ〜久しぶりですね!一緒にご飯食べるの!」


「そうだね、別に何回でも誘ってくれればいいからね」


「そうしたいのは山々なんですけどぉ……水瀬先輩が私が燐音先輩に誘う度に睨みつけて来るんですよねー」


「あの燐音が……?それ私のおかず奪え無くなるからじゃないかな、私のおかず毎回取ろうとしてくるし」


「そうなんですか?」


 と、杏奈ちゃんは首を傾げ、問いかけてくる。やっぱ杏奈ちゃんは純粋で可愛いな、昔は燐音もこれくらい可愛かったのに。


「そうなんだよ、あいついつも家だとダラしなくてさぁ、まあこれ以上言ったら陰口になっちゃうから辞めとくね、悪口は本人に直接言うのが私のモットーだから」


「モットーですか、それだったら私もモットーありますよ」


 杏奈ちゃんは少し頬を染め、普段より小さな声で震えながら言ってきた。


「そうなの?どんなモットー?」


「好きな人にはちゃんと好きって定期的に言うモットー……的な?」


 好きな人にはちゃんと好きって言う?それってモットーなのか?杏奈ちゃんが言ってるんだし、合ってるか。


「なるほど?」


「先輩、大好きです!」


「ほ、ほんと?嬉しいな……私も友達として好きだよ!一緒にご飯食べる人、陽葵以外にいなかったから、あの時誘ってくれて嬉しかったな」


「先輩って優しいのに鈍感ですよね」


 なんて、杏奈ちゃんに呆れ顔で言われてしまった。別に鈍感ではないのに。


「……鈍感?」


「そうです鈍感です、水瀬先輩も苦労しそうですね」


「なんでそこで陽葵が出てくるの?」



「まあなんでもいいですよ、それよりそのだし巻き玉子とこの唐揚げ交換してくれませんか?」


「いいの?そんなメインのおかず貰っちゃって」


「いいですよ────」













「……おかえり燐音、後輩と二人っきりでご飯食べるの楽しかった?」


 教室に戻ってすぐに扉近くで体育座りしていた、陽葵にそう言われた。何故か、「二人っきり」という言葉を強調させて……

 なんでそこに座ってるんだ。クラスの皆こっちジロジロ見てるじゃん。

「水瀬さんが悲しそうに体育座り……」とか「好きな人に告白して断られたのかな」なんて声が周りから聞こえる。


「うん、楽しかったよ、そんなにおかず欲しかったなら、次から杏奈ちゃんとご飯食べに行く前におかずちょっとあげようか?」


「そういうことじゃないんだけど……」


「うん?まあとりあえず、授業始まるから席つかないと」


「……うん」


 陽葵に、他の人と食べに行く前におかずをあげる……という提案をしたが、その提案がお気に召さなかったのか、その後の授業もどこか所作無さげにしていて、時々私の方を見て、目が合ったら何故か「ブォン」という風の音が聞こえそうな程、首を回し、目を合わせなくしてくる始末……












「陽葵?なんかさっきから機嫌悪そうだけど、なんか私した?」



 そう私が言うと、陽葵が「うぅぅうーん」と唸って、やがて……



「いや、なんと言うか……いやいい!許してあげるからアイス今度奢って!」


 陽葵がそう言って、笑顔になった。一体何が陽葵をそうさせたのだろうか。


「……まあ、いいけど、なんで怒ってたのかは教えてくれないんだ?」


「まあそこは自分で考えて欲しいかなぁ〜なんて」


 本当に悪いことをした覚えがないのだが、陽葵は今日みたいにたまに、私が知らないことで怒るのだ。



「まあ、分かるようになるよ」


「私のためにも頑張ってね燐音」


「はいはい……」



 陽葵の為……か。




 私がいつも、陽葵の世話をしてる理由は、陽葵の為では無い……と思う。

 一体何故、私が陽葵の世話をしているのか分からない。何故か陽葵の事をしている間は幸福な気分で居られるのだ────



「おーい?早く帰ろうよ」


 ずっと黙って突っ立っていた。私がおかしいと思ったのか、私の顔を覗き込んできて、首を傾げる陽葵。可愛く見えるからやめろ。


「分かってるよ、考え事してた」


「ふーん?いつも考えてないのにね」


「私が何も考えてないバカってわけ?あんたの方が何も考えてないでしょ」


「学年1位」


「うっ……そうだこいつ学年1位なんだった……家だとバカにしか見えないから、仕方ないよね」


「仕方なくない!」











「はいはい、奥詰めてクレメンス燐音ちゅわーん」


「キモイ」



 今はご飯、お風呂が終わり、寝る時間だった。

 ベッドはセミダブルサイズなので、私たち二人共がギリギリ入るくらいだ。


「ねぇー膝枕ひざまくらしてよ燐音」


「うん?腕枕うでまくらじゃなくて?」


「そうなんです、腕枕がダメなら膝枕してもらおうと!!私は思ったのですねぇ!」


 なんてドヤッと偉そうに言う。陽葵のくせに生意気だぞ……


「へぇ、まあ確かにやったことないし……いいよ」



 私がそう言うと、陽葵は花が咲いたような、パッとした笑顔になった。

 そして、私がベッドに座り、陽葵がそこに寝る形になった。


「思ったんだけど、燐音」


「なに?文句でもあるの?私のに」


「そう、それだよ!これじゃ膝枕じゃなくて太もも枕な気がするんだよね」


 それは……


「それは、確かに……」



「だから、の膝枕をしてみよう!」


 と、陽葵に提案され、二人でどうすれば、言葉通りの膝枕ができるのか考えてみた結果が……


────これだ


「うぇー燐音ーこれ頭痛いし、高いから首痛い」


 こうなってしまった。どうやって膝枕をしたのか……それは。

 私が仰向けに寝っ転がり、その膝に陽葵が頭を置いたのだ。イメージとしては、少し左側に寄っているTの形だ。ベッドだと狭かったので結果的に床でやることになった。


「床に頭置いてるから私もちょっと痛い……もうやめよう」


わたし太腿枕欲太もも枕がいい


「はいはい……」

















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ズボラ幼馴染が何故かズボラを直さない ポンビン @Ohuton29

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