第2話 様子がおかしい件
俺が嘘をついた翌日から、明らかに千夏の様子がおかしくなった。
まず、朝の登校だ。いつもは俺が玄関を出ると、家の前で欠伸をしながら待っているか、時間ギリギリで「祐樹、ダッシュ!」と叫ぶかのどっちかなのに、その日は俺が家を出る前にインターホンが鳴った。
「おはよ、祐樹。行こ」
ドアを開けると、そこにはやけに準備万端な千夏が立っていた。
「……お前、早くないか?」
「別に。たまたま目が覚めただけ」
ふい、と顔を背ける千夏。まあ、そんな日もあるか、と深く考えずに家を出た。
教室に着いても、千夏は俺の席の近くをうろちょろしている。今までは、教室に着いたらすぐにバスケ部の友達のところへ行ってしまうのに。
「なあ、祐樹。今日の昼、弁当?」
「いや、学食だけど」
「ふーん……。じゃあ、私も学食にしよっかな」
いや、お前いつも愛妻弁当(お母さん特製)だろ。
昼休み、学食で唐揚げ定食を食べていると、宣言通り、千夏がトレイを持って向かいに座った。
「……で? そのカノジョとは、昼休みとか一緒に食べないの?」
「げっ」
いきなり核心を突かれて、俺は思わずむせた。
「いや、あいつは友達と食べるって……」
「へえ、そうなんだ。祐樹のこと、ほったらかしなんだね」
どこか棘のある言い方。しかも、俺の唐揚げを一つ、当然のように自分の皿に移している。
「おい、人の唐揚げ!」
「いいじゃん、一個くらい。それより、その彼女って、何組の子?」
「え、えーっと……」
「どこのクラスか、まさか知らないなんてことないよね?」
「に、2組だよ! 鈴木さんだ!」
咄嗟に出てきた、クラス名簿で一番ありきたりな名前。
「へえ、2組の鈴木さん……」
千夏は何かを確かめるようにその名前を呟くと、スマホを取り出して何かを打ち込み始めた。おい、まさか調べたりしねえよな……?
冷や汗をかいていると、千夏はパッと顔を上げた。
「ねえ、今度の週末、空いてる?」
「週末? まあ、特に予定は……」
「ない」と言いかけて、ハッとした。「彼女とデート」という、この嘘を補強するための絶好のチャンスじゃないか。
「いや、悪い! 週末は彼女とデートなんだ」
「……どこ行くの?」
「え? あー、映画とか、かな?」
「何見るの?」
「そ、それはまだ決まってなくて……」
千夏の質問攻めは、まるで尋問だった。その目は全然笑っていない。なんで俺、こんな嘘ついちゃったんだろ……。
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