三日目:王宮のロースト


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 牢獄の夜は、変わらず冷たい。

 石壁に囲まれた空間は、時間の流れを忘れさせる。

 外では秋の風が王都を吹き抜け、宴の灯が城の窓を照らしているかもしれない。

 だが、この場所には、過去の残響だけが静かに漂っていた。


「今夜は?」


 看守の短い問いに、死刑囚ジャウハラは少し笑みを浮かべて答えた。

 その笑みは、懐かしさと痛みが混じった、複雑な色をしていた。


「王宮のロースト。あの厨房の味を、俺は、もう一度……食べておくべきだろうから……」


 皿の上には、香草で焼かれた肉と、黄金色の根菜。

 見た目にも美しく、香りは食欲をそそる。だが、死刑囚ジャウハラは、寂しそうに目を細めていた。


「王に仕えていた頃、宴のたびに厨房でつまみ食いした。厨房のメイドだった頃のルゥルゥから、よく叱られていたよ。 まだ生焼けだから、食べないでくださいと……」


 ジャウハラは、懐かしむように目を細めた。

 その頃のジャウハラは、若く、無邪気で、忠誠に満ちていた。

 王のそばにいることが誇りであり、未来は輝いていた。


 看守は黙っていた。

 豪勢な肉の香りが牢に満ちる。

 それは、かつての栄光の香りでもあり、今は罪人の最後の晩餐でもあった。


「このローストは、陛下の好物だった……そして……」


 ジャウハラは、祈るように両手の手のひらを合わせた。

 その仕草は、かつて王に忠誠を誓った近衛騎士の名残だった。

 だが、今はその手に、血と惨劇の記憶が染みついている。


「――王宮は、王国は、すべて聡明なる陛下のものだった……そのはずだったのに……俺は……俺がすべてを……」


 彼の言葉は途中で途切れた。

 語られなかった部分にこそ、真実があるように思えた。

 看守は、何も言えなかった。

 目の前の男の哀れな姿は、悲しく映った。

 

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 死刑執行まで、あと四日。

 夜は静かに、記憶と後悔を包み込んでいく。


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