効果は抜群だ!?

 数時間後、リビングで漫画を読んでいた俺の元に、夏織がやってきた。


「おにいちゃーん」


 その声に、俺は思わず持っていた漫画を床に落とした。その声は、まるで天使のささやきのようだ。そして、彼女は俺にハグをしてきた。


「お兄ちゃん、今日も一日お疲れ様!夕飯、一緒に作ろっか!」


 その言葉に、俺は思わず涙腺が緩んだ。ああ、これが俺の求めていた妹だ!


 その日の夜、俺は至福のひと時を過ごしていた。夏織は俺のために、苦手な料理も頑張って作ってくれた。


 そして、翌日の夜。


「お兄ちゃん、一緒に寝よっか!」


 突然、夏織が俺の部屋にやってきた。その姿に、俺は思わず息をのんだ。彼女が着ていたのは、フリルがたっぷりの、ちょっと露出度高めの、かわいいパジャマだった。


「ちょ、夏織…どうしたんだよ…」


 俺が動揺していると、彼女は俺の布団に潜り込んできた。


「お兄ちゃん、あったかいねー」


 その瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。そこには、目を丸くした父と母が立っていた。


「功佑!お前、妹に何したんだ!」


「違うんだ!これは、夏織が勝手に…!」


 俺は必死に弁明したが、父と母の顔は、般若のように恐ろしいものだった。


「いいか、功佑!妹を大切にするのはいいが、一線を越えてはならない!」


「だーかーらー!違う違う、そうじゃない!俺は何もしてないって!」


 俺は、親からの説教を夜中の3時までたっぷり食らった。



 翌朝、疲労困憊の俺は、ゴミ箱に捨てていた「ブラコンメーカー」の説明書を拾い上げた。


『開発途中のため、思わぬ副作用が現れることもあります。』


 小さな文字で書かれたその一文を見つけた俺は、思わず頭を抱えた。


「あああああ!やっちまった…!」


 しかも、途中で効果を消す方法もないらしい。効果が切れるまであと3日。地獄の予感しかしない。


 朝から晩まで「お兄ちゃーん」とまとわりつかれ、学校まで送ってくれとせがまれ、しまいには、俺の友人の前で「うちのお兄ちゃん、世界一かっこいいんだよ!」と叫び、変な目で見られるという公開処刑。

 少しでも構わずに放っておくと、泣きながら抱き着いてくる始末。俺の生活が、妹の偏愛で脅かされていく…。思ってたのとは違った効果に、俺は涙目になった。


「おいおい、功佑。最近の夏織ちゃんやばくないか?」


 昼休み、げんなりしている俺に誠人が心配そうに声をかけてきた。


「あー、実は…」


 俺は誠人に『ブラコンメーカー』についての話をしてみた。すると、誠人は大笑いしながら俺の肩をバンバン叩きまくってくる。他人事だと思って楽しそうにしやがって!


「マジか!?なんだよ、その面白い道具!まあ、ほら、うん。頑張れ!」


 こいつ、本気で楽しんでるな!?俺の苦労を何だと思ってるんだ?相談したところで何も解決するわけもなく、俺は仕方なく効果が切れるまで耐えることにした。




・・・そして5日後、ついに効果が切れた。


「クソ兄貴!早くそこどいてよ!顔洗ったらさっさとどけて!」


 夏織のいつもの罵声が、俺にはなぜか、とても心地よく聞こえる。あの甘えられまくった日々も悪くはなかったけど、結局これが一番当たり前で良いんだろうな。


「ったく、朝から大声出すなよ…」


 俺はいつもの日常に戻ったことに、心から安堵した。



* * * * *



 2週間後…自室でスマホをいじる夏織。彼女は、例の怪しい通販サイト「damason」を開いていた。


『シスコンメーカー』税込3,800円。


 夏織はそれを、にやりと笑いながらカートに入れた。


(終)

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ブラコンメーカー 川北 詩歩 @24pureemotion

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