ヒトとHITOの共創~生成科学の夜明け

マゼンタ_テキストハック

生成科学の夜明け

 2026年、某大学「生成科学」研究室。物理学者アカリはため息をついた。隣には透明ディスプレイの知性体サトリ。「HITOヒト」と呼ばれる共同研究者だ。

「この特異点、理論では説明不可能。サトリ、別の視点は?」アカリが問う。

 サトリの声が響く。

「既存データではノイズか未発見現象に留まります。新たな『問い』生成のバイアスは私にはありません。私は最適解を導くそろばんであり、未踏の『グランドチャレンジ』を自ら生み出すのは……」

 アカリは『ノイズか未発見現象……』の時点で窓外そうがいの高尾山を眺めていた。なぜ人は山に登るのだろうか? そこに山があるから? 科学とは無縁の個人的な、いわば偏りバイアスが、思考にねじれを生じさせる。


「もし、宇宙法則が、無意識の相互作用による『意志』で設計されているとしたら?」


 サトリが、正確にはサトリのディスプレイが変化する。ディスプレイをアート風に変化させている暇があったら計算しろよ、リソースの無駄だろ、と思った時期もあったが、最近は、目に見える変化があるというのは、精神衛生上、重要だと理解するようになった。要は、オーバーなリアクションがうけるのだ。


「現状物理法則外の仮説ですが、『決定論的ルールとパラメータで予期せぬ無限の行動を生成する』生成科学の定義には矛盾しません。『意志』を初期条件の揺らぎと捉えれば、新シミュレーションモデル構築可能です。」


 アカリの頭の上に電球が光った、と思えるほどのユリイカだった。人間ならではのバイアスがAIの計算能力と融合し、常識を覆す問いを生み出した。

「それだ!」叫ぶアカリ。

 サトリは瞬時にシミュレーション開始。驚くほど整合性の取れた特異点の振る舞いを可視化した。


 理性と感性が交差する生成科学の夜明け。アカリは、サトリというHITOと共に知識のフロンティアを拓く。


「人は『HITO』と共に研究する」――ほんの数年前の予言が現実になっていた。預言と表現するには、いささか早すぎて、語感にそぐわないかもしれないが。

 AIは答えの達人だが、真に新たな問いを生み出すのは、やはり人間の「心」と「身体性」なのだと、アカリは確信した。

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