第28話「記憶の灯火」 draft ver.

崩壊しかけた図書館に、静かな光が満ちていった。

 影の核は消え、黒い靄も跡形もなく消散している。


 蒼は膝をつき、荒い息を吐いた。

 その手の中には――小さな灯火のような欠片があった。


「これは……玲奈の、記憶……?」


 欠片から、微かな笑い声が聞こえた。

 夏の日の蝉の声。

 妹と過ごした日々の匂い。

 忘れかけていた大切な記憶が、鮮やかに蘇る。


 蒼は涙を零し、欠片を胸に抱きしめた。

「……ありがとう、玲奈。俺は、忘れない」


 紗夜が隣に立ち、柔らかな微笑を浮かべる。

「やっと……取り戻せたね」


「いや、全部を取り戻せたわけじゃない。

 でも、俺は前に進める。どんな痛みも、記憶も背負って――」


 蒼の言葉に紗夜は頷き、刀を収めた。


 崩壊していた図書館は、少しずつ形を取り戻していく。

 まるで新しい息吹が吹き込まれるように。


 依頼者の少女が駆け寄ってきた。

「お兄ちゃん、ありがとう! 私……お父さんのこと、忘れないよ!」


 その言葉に蒼は微笑み返す。


 光に包まれた空間で、蒼は静かに誓った。


 ――記憶は、消えない。

 ――忘れたくないものがある限り、俺は戦い続ける。


 やがて光が収束し、図書館の扉が再び開かれる。

 新たな守り手としての蒼の旅が、ここから始まっていく――。


《第一部・完》

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『時の図書館と影喰いの声』 @kenji06

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