エピローグ「無色透明だった世界に、彩りを」

 私が、アレクシス・フォン・ヴァイスの妻、美桜・ヴァイスとなってから、一年が過ぎた。

 王都での生活は、すっかり私の日常になっていた。


「美桜、おはよう」


 朝、目を覚ますと、隣には愛しい人の寝顔がある。銀色の髪が、朝日を浴びてキラキラと輝いている。


「おはようございます、アレクちゃん」


「……その呼び方はやめろと、あれほど」


 私がわざと昔のあだ名で呼ぶと、彼はむすっとした顔で眉をひそめる。その彼の周りには、「照れ」を示す、可愛らしい桜色の光が揺らめいていた。

 封印から解放されて以来、アレクシス様の感情は、驚くほど豊かになった。

 もちろん、普段は相変わらず冷静沈着で、騎士団長としての威厳を保っている。でも、私の前では、本当に色々な表情を見せてくれるようになった。

 私が作った料理を食べれば、温かいオレンジ色。

 私が他の男性と親しげに話していると(相手はレオン副団長なのだが)、嫉妬を示す、少し濁った紫色のオーラをメラメラと燃やす。

 そして、二人きりで穏やかな時間を過ごしている時には、いつも、あの深く優しい青色の光で、私を包んでくれる。


「今日は、騎士団の創立記念式典があるんだったな」


「はい。なので、アレクシス様には、とびきり格好良くいていただかないと」


 私はそう言って、彼の騎士服の襟を直してあげる。彼はくすぐったそうに身じろぎしながらも、されるがままになっていた。


「……なあ、美桜」


「なんですか?」


「式典が終わったら、少し二人で出かけないか」


「まあ、珍しい。いいですよ、どこへ行きますか?」


「君と初めて会った、あの広場へ」


 彼の言葉に、私は少しだけ驚いて、そして、すぐに笑顔になった。


「はい、喜んで」


 夕方、式典を終えた私たちは、少しだけ着崩した正装のまま、思い出の広場を訪れた。

 一年前、私が倒れていた場所。

 彼が、私を見つけてくれた場所。

 広場は、夕日に照らされて、オレンジ色に染まっていた。行き交う人々からは、相変わらず様々な感情の色が立ち上っている。

 けれど、もう、あの頃のように不快で、息苦しいとは思わなかった。

 汚い色もあれば、綺麗な色もある。人は、そういう色々な感情を抱えて生きているんだと、今は分かるから。

 そして何より、私の隣には、この人がいてくれるから。


「ここだったな」


 アレクシス様が、広場の噴水の縁に腰掛けながら言った。


「そうですね。あの時は、本当に死ぬかと思いました」


「……俺もだ。あの時、君を助けていなかったらと思うと、ぞっとする」


 彼はそう言うと、私の手をぎゅっと握った。


「君がいなかったら、俺は今も、凍てついた心で、無色の世界を生きていただろう。君が、俺に生きる意味と、温もりを教えてくれた」


「私もですよ。あなたがいなかったら、私は今も、人の感情の色に怯えて、心を閉ざしたままだったと思います。あなたが、私の世界に光をくれたんです」


 私たちは、見つめ合って、どちらからともなく微笑んだ。

 彼の周りには、黄金色の幸せと、青色の愛しさが、美しいマーブル模様を描いて輝いている。

 きっと、私の周りにも、同じくらい綺麗な色が輝いているのだろう。


「愛している、美桜」


「私もです、アレクシス様」


 私たちは、夕日に照らされた広場の真ん中で、そっと唇を重ねた。

 かつて、私の世界は、不快な色で満ちていた。

 そして、彼の世界は、全ての色を失った、無色透明だった。

 そんな私たちが、出会って、惹かれ合って、お互いの世界を、鮮やかな彩りで満たしていく。

 これから先も、きっと色々なことがあるだろう。

 でも、二人でいれば、どんな色の未来だって、きっと乗り越えていける。

 私の世界は、あなたという、ただ一つの、愛おしい色で、満たされているのだから。

 これからも、永遠に。

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他人の感情が色で見える人間不信の私。異世界で出会ったのは唯一感情の色がない氷霜の騎士様でした 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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