ありがとう

ㅤずっと、好きだった。


ㅤずっとずっと、側にいようと思っていた。


ㅤけれど、君は私のことを何度も忘れちゃって。


ㅤだんだん素っ気なくなって、冷たくなって。


ㅤそれでも、君の側にいたかった。


ㅤ君はいつだって明るい子だった。時々変なことを言うけれど、それがおかしくて、楽しかった。


ㅤ君の細い身体、白い肌、可愛らしい顔。


ㅤ全部全部、私にとって大切なものだった。


ㅤ君は私にとって、全部だった。


ㅤねえ、さくらちゃん。


ㅤもう、私のこと、忘れないでね。


「一歳さん。」

「なに」

「さくらちゃんって呼んでもいいよね。」

「そういえば、この前そう呼んでたよね、いいよ」

「やった〜!」


ㅤさくらちゃんはここ最近、私のことを覚えていてくれる。表情も前より明るくなってきて、前よりもずっと元気そうだ。


ㅤ酷い時は、二日で私のことを忘れちゃうことだってあったのに、今はさくらちゃんが記憶を失いそうには見えない。


ㅤもう、いいんだよね。


ㅤ我慢しなくても。


ㅤいつさくらちゃんが私のことを忘れるか、怯えなくても。


ㅤ「前の席の子」、「新しい友達」、「しつこい子」、「変な知り合い」そんな毎日を演じなくてもいいんだよね。


ㅤ私はずっと、さくらちゃんの側にいるから。


ㅤ家でも、学校でも、いつだって、どこへ行ったって。


ㅤそう思うと、涙が溢れそうで。さくらちゃんを抱きしめて、そんな顔を見られないように顔を埋める。


「ちょっ、雪菜、こんなところで...」

「いいじゃんもう。あんなことだってしたんだからさ。」

「もう...」


ㅤそう文句を言うさくらちゃんの声からは、怒っている様子は感じられなくて、むしろ安堵や喜びを強く感じる。


ㅤさくらちゃん、さくらちゃん。


ㅤ好きが、とめどなく押し寄せてきて、止まらない。


ㅤずっと、大好きだから。


ㅤずっと、側にいるから。


ㅤ一緒にご飯を食べて、一緒の学校に通って、一緒の家に帰って、一緒に寝る。


ㅤそんな毎日を、ずっと。


ㅤさくらちゃんにそんな好きが伝わってしまったのか、彼女は少しだけ恥ずかしそうに身をよじる。


ㅤさくらちゃんは、私で、私はさくらちゃん。


ㅤだけど、さくらちゃんはさくらちゃんだから、私は私で。


ㅤだから、手を繋いで、抱き合って、触れ合って、お互いの意識を確かめ合うの。


ㅤこの関係は、友達か、親友か、恋人か。そんなもので一括りにできない関係だと思う。


ㅤしっかりと、地面を踏み締めて、さくらちゃんと一緒の、夢みたいな現実を歩む。


ㅤずぅーーーっと、大好きだよ、さくらちゃん。

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ふわりふわりと浮く幻に こー @kookun

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