アマゾンの秘境『プライ・ム・デー』

ようよう白

第1話

 調査隊は、アマゾンの調査に来ている。


 秘境プライ・ム・デーとは何か、高まる心臓の鼓動と共に冒険の予感に心が打ち震え興奮する。


 我が調査隊は、調査隊と名乗っているが人間は私一人である。


 他の調査員は全てAIサポートで構成されている。


 強化外骨格スーツと装備されているインカム、ヘルメットに装着したトリプル多目的カメラが私をサポートする。


 『プライ・ム・デー』


 謎の言葉である、 今から約10年前に探索者仲間の間で噂された与太話の類と思われていた。


 しかし、 『プライ・ム・デー』を信じて飛び込んだ同業者が対価と共に膨大な財宝を手に入れた。


  ―——その中には、師であり、そして唯一の友だった「ステラン」もいた。

 彼は帰還せず、残されたのは郵送された一枚のカードだけ。


 私はその遺品を胸ポケットに収め、彼の跡を継ぐようにアマゾンへ来た。


 ただの財宝目当てではない。


 あの門の向こうに、彼が見た「真実」があると信じている。



 私の感傷を無視して、業界は沸き立ち多くの者が準備をして乗り込んでいった、しかし、問題が発生する。


 アマゾンは、『プライ・ム・デー』への道を閉ざしていた。


 探索者たちの、今日に至るまで毎年に及ぶ地道な調査と観測により、恐るべき事実が浮かび上がった。


 アマゾンは、『プライ・ム・デー』に続く道に期間を設けている!


 この事実に、探索者たちは恐怖し、だが心を燃やした。


 そう、『プライ・ム・デー』の道が開くまでの期間を利用し、アマゾンの奥地をできうる限り調査し、そして自分たちが信じる良きモノに当たりをつける。




 

☆AmazonAmazonAmazonAmazonAmazonAmazonAmazonAmazonAmazon☆






 『アマゾンは時間に従順である。しかし慈悲深いわけではない』


 ヘッドセットから響くAIナビゲーター『エコー』の冷静な声に私は頷いた。足下の腐葉土を踏みしめると、張り付いてくる感触が不気味で重い。



 「エコー、予測モデル、いつだ?」


 『『プライ・ム・デー』への通路開放確率78.6%。最大確率帯域は00時00分±13秒。現在時刻は23時58分32秒』


 『周辺の通信効率が極端に低下しています。ping値フィードバックパターンに通常と異なる障害が確認されました』


 これは……私が調査した、過去三度の通路開放時に見られた予兆と完全一致する。


 私はバイザーを開け、額の汗を拭った。


 腕時計型メディカルデバイスが警告音を立てる。


 《心拍数153、体温上昇37.7℃。血中酸素濃度が基準値を下回っています》


 身に着けた強化外骨格スーツの装置が自動的に冷房モードへ移行する。


 最新AI維持ユニット『ドット』。三年前のパートナーとの死れて以来の相棒の仕事だ。


 「エコー、生体認証を確認。外部干渉レベルは?」


 『『プライム・デー』に関する電気活動が通常の143%増加。

 また周辺で六件の不明瞭な熱源反応を検知しました。他チームの可能性が高いです……待機を推奨します』


 「断る」


 私は腰のホルスターから高出力LEDライトを引き抜いた。


 赤い警戒ランプが点灯している。


 「エコー、前方、約百五十メートル地点。特殊振動を確認。通路開放の前兆か?」



 『不明。未知の信号を感知。波形解析中……該当なし。未知の存在の可能性があります』


 ヘルメット内の多目的カメラが自動的に赤外線モードへ切り替わる。熱感知画像に浮かび上がったのは——―。


「エコー……これは……」


 そこには、大地の色を持つ体に、サファイアのような青き帯を身に包んだ立方体であった。


 それは、森の闇の中で静かに鎮座している。


 注意深く帯を見るとまるで矢印なのか人のくちびるを片方だけ持ち上げたような、宇宙の深淵を思わせる謎の文様が施されていた。


 『危険指数99.2%。撤退を強く推奨します』


 私は呼吸を整えた。


 ポケットからカードを取り出す。


 3年前、彼が送ってきた白きカード、私にとっての護符だ。


「エコー、バイタルデータを最優先で保存。通信ログは永久記録モードへ」


 中央の大地のような色をした立方体が脈打ち始めたように見える。


 私の鼓動と同期するように……胸が締め付けられる。


「来たぞ……」


 突如、空間が裂けた。七色の光が放射状に広がり、目の前に巨大な門が姿を現す。

 金属でも樹木でもない素材でできた扉。


 表面に走る幾何学模様は生きているかのように線の片方を持ち上げている。


 『プライ・ム・デー』への入り口だ。


 その時——―。


 背後の茂みが激しく揺れた。


 「動くな」


 二人の男が銃を向けている。

 陸軍迷彩の防護服に青の『スタッシュ』マーク、過去の残党か。


 リーダー格の男が笑った。

 

「遅れて悪かったな。道案内頼むぜ? 俺たちスタッシュが本物のお宝を運び出すぜ」


 脇にいた小柄な男が舌打ちする。


 「時間がねえ、リーダー。他のやつらが動いているぞ」


 もう一人、背の高い女が銃を構えたまま言う。

 「こいつ一人だろ。情報を吐かせるか殺す、どっちだ?」


 彼らは単なる強奪者ではない。十年前の『第一黄金期』を逃した二世代目の探索者集団。

 

 第三帝国の香りがする、前世代の失敗を挽回するためなら、どんな手でも使う。



 エコーの警告音が鳴り響く。私の命綱である生命維持装置のロック機構に異常アクセスを検知。プロか。


 スタッシュのローダーと呼ばれた男が近づいてきた。


 「十年前の『第一黄金期』を逃した愚か者どもとは違う。俺たちが本当の遺産を継ぐ」


 彼らの背後にさらに三人。全部で六名。武装した探索者チームだ。


 私は静かに笑った。


 「お前たちこそ何も分かっていない」


 突然、門から唸り声が響いた。空間全体が震動する。


 『警告。『プライ・ム・デー』通路が不安定化。未許可アクセスによる干渉の可能性あり』


 スタッシュたちが困惑して互いを見合う。


 門の表面が急に波打った。浮かび上がった古代文字が読み取れる——―。

 

 【侵入者認証中……拒否。異物排除シーケンス起動】


 スタッシュのリーダーが慌てて門に近づく。


 「なに……拒否? 認証が通らねえ!?」


 慌てるスタッシュリーダーを横目に俺は駆け出す。


 「ドット、プロトコルDay One機動!」


 《承認。ドット・システムとリンク開始。生体認証最終フェーズへ》 


 私のカードが白く輝く。


 背後からスタッシュのリーダーが怒気を込めて叫ぶ。


 「撃てえっ!!」 


 銃口が火を噴く。

 

 弾丸は私へと真っすぐに突き進む。


 しかし、私を包む白い光が銃弾の動きを止める。


 まるで時が止まったように。


 『プライ・ム・デー』の門は、侵入者を排除するのではなく、資格があるものを守ったのだった。


 私は光に包まれながら、最後に彼らへ言葉を残した。


 「これが……Day One。始まりの日だ」


 門が開き、私は光の中へと吸い込まれていった——。




 完。

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