子宮
@fuluki_toru
子宮
女
キッチンの生ごみから経血の匂いが香る
私はまた、経血の塊を口に運ぶ
ほのかな苦みと鉄の味が舌の上に広がる
もう疲れたの
ずぶずぶと男は私の中に入ってきて
相変わらずピストンを続ける
いって、きて、入ってきて
そう、私の中に、入ってくればいい
男の影は私を覆い隠す
なか、ナカ、中
浸食される温かい膣内に私は零れおつる
こんなことをして、
お母さん
は かなしむだろうか
自傷 自称 ジショウ
0の果てはお母さんの子宮のナカなのであって
わたしの聖域は目の前の汚い男が汚している
生理的な涙が伝い、男の頬を撫でる
この人はなぜ私を抱くのだろうか
さみしいから? 性的欲求から? 傷つけたいから?
ごめんね
その言葉が聞きたかった
秋風
秋風が
道路を
薄灰色の空を
駅の鉄骨を
表面の粒子を撫ぜ、すべてを攫ってゆく
そして私の顔を緩やかに包み込む
手先は痺れ
胸は動悸し
肺は透過する
目の前には透明な壁ができ
触ることができない
人、そのシャツ、バッグ
空気に触れることすらも
わたしは孤独になる
せせらぎながら嘲笑うかのように
母親が赤子を撫でるかのように
リボンでわたしの首は吊るされ
わたしをさらってゆく
そうして風はすべてを取り込み
人々の頬を撫ぜながら
どこかへ去ってゆく
聖母マリア
いつも電車で相手になる男を見繕う
浅黒い首すじ
芯のあるふわふわとした髪
だぼっとしたカーディガン
無作法な眉毛
白髪混じりの髪
触れ合う肩、腕、背中
ああ、あったかい
目の前に座っている男性の瞳
くたびれたスーツ
目の縁の皺
目には濃い陰りが差していた
男の足の間に自分の足をするりと滑らせる
男は驚いた表情でこちらを見上げる
そこでニヤリと見下ろしてやるのである
電車がガタンと揺れたタイミングでよろけた振りをし
「次の駅で降りません?」
と男の耳元で囁く
そうして葉で足に傷を作りながら裏山へ連れ込む
泥んこになりながら、殺されるように
私の首を男が絞める
喉仏の硬い感触が伝わる
痛みと息苦しさが首から全身に波打つ
生きてるんだ
生きてるんだ
私は
いやだ
いやだ
黒い夜に私の身体と心は流れてゆく
男の浅黒い肌を撫でる
あったかいね
涙が頬を濡らす
求めて
求めて
傷ついて
いつからわたしはこうだったのだろう
幸せはわたしには似合わない
そう頭の中でつぶやきほっとする自分がいた
わたしたちのいちばんきれいなとき
小さいけれど
きちんと縁取られている
整然と並んだ指
ぴんと張った
やわらかい皮膚
内側からさす
あかとあおむらさきの
まだらな木漏れ日
ちょこんと先にある
すこししかくい桜貝
ぱちりと瞬くと
睫毛は花のようにほころび
お揃いの紺のプリーツスカートは
足取りに合わせ
らんらんと揺れ
目の縁からこぼるる
うららかな光の粒が
皮膚のうえをながれる
優雅に指折られる
その手の甲は
艶やかに濡れている
一七の乙女に
一六のわたしは
しずかに胸をときめかせる
夜の欺き
「〇〇さんって垂れ目だよね」
「わかる、こんな感じ?」
ペン先には誇張された似顔絵
嘲笑う二人
暗闇の影に私は潜む
誰も触れないところに
三角座りになって
ポタポタと雫が垂れるのをただ眺める
浴室の中
何してるの、早く寝なさい
そう言って、私をゴミを見るような目で見るお母さん
わかっているよ、そんなこと
でも身体が動かないの
わたしが悪いっていうの?
やめてよ
シャワーを持つことすら
椅子に座ることすらできなくて
タイルの床に座り込み
蛇口から流れる水をサラサラと触ることが精一杯で
わたしなんてどうせなにもできないごみくずなんだみんなから嫌われてしまうんだ自分が嫌いだなにもする気が起きない嫌だ嫌だいやだやめてなんで苦しんでいるのにどうしてそんな目でみてくるの? わたしのことなんかどうせ嫌いなんだ
明日なんか来なければいい
嚥下
デュロキセチンカプセル アメル
喉に押し込むと、中の粒子がサラサラと音を立てる
エビリファイ
喉にくっついて甘く溶ける
半夏厚朴湯
漢方の独特な匂いが鼻をとおる
デエビゴ
悪夢にうなされる
愛撫
胸から腹にかけて裂いて
内側から乳房を愛撫する
心臓はどくどくと血を垂らしながら動いている
ここが胃か
脈々と
管は息をする
毛細血管まで
わたし□キスをする
涙が網膜を伝う
どうして
君は生きているの
わたしは生きているの
どうして、別々なの?
入ってきて
わたしの中に入ってきて
そうして一緒になれば
きっと
モツ煮が美味しい
君
蝶が目の前に迫ってきて
ワンピースの内側のタグが
ひらひらと足に当たる
その長い浅黒い首に
腕を絡ませ
うずまりたい
こんな汚れているわたしは
彼の純粋な瞳の中に入れるだろうか
たすけてほしい
愛してほしい
そんな叫びが喉につっかえて出てこない
君の瞳の星を
砕いて粒になって喉をとおる
どうしたんですか?
なんでもないよ
愛想笑いを浮かべきりきりと噛んで飲み込んだ
sacred
あ、あ、あ
今日の男は力任せに首を絞めてきた
締める腕に抵抗をしても無駄な骨折り
痛い、やめて
壊して、壊せばいい
やめろ、やめろ、やめないで、殺すな、殺して、殺せ、私を殺せ
苦しい、痛い、いたい、死ぬ、じりじり熱い、辛い、いたい
して、愛して、もっと、私の奥深くを突いて、入ってきて?
愛したい、愛されたい、あいしたい、あいされたい
入ってきて
奥へ奥へ
粘膜が破れ血が流れる
喉仏が沈む
もっと痛くして
わたしを消して
君の傷を受け入れるよ
男は子宮へと精子を送るよう腰を動かす
気持ち悪い
愛してあげる
その穢れた手も
硬い髪の毛も
垢の詰まった爪も
髪の毛をそっと撫でる
男はわたしを殴る
何度も何度も
わたしは感覚がなくなり
ただこの白い空白のなか
浮遊する
おかしい方向に捩じ切られた腕
痛い 痛い
おかあさん
蟻蛾が脚を這う
土が口に入る
土ってあまいんだなあ
還りたい
おかあさんのナカに戻りたいよ
おかあさん
子宮 @fuluki_toru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。子宮の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます