第24話 一緒に歩む未来

駅前の大きなクリスマスツリーに着くと、たくさんのカップルたちが同じように待ち合わせをしている。

どこにいるだろうとキョロキョロ探すと、背を向けて立っている。


「お待たせ」


まいは息を切らせて声をかけると、「おぅ」と佐久間さくまが振り返った。

「ワンピースとか珍しいな」

「あぁ・・うん」

「今日のご飯だけど、レストラン予約してる」

「うん・・・」

佐久間は向き直ると、舞の肩に手を乗せた。


「永野、お前はわかりやすすぎる」


「え?」


「言いたいことがあるから来たんだろ?」


佐久間は優しく微笑んだ。


「うん」


「じゃあちゃんと言ってくれ。最後まで聞くから」


「私、佐久間に今日誘ってもらってすごく嬉しかった。佐久間はいつも優しくて、私を見守ってくれて、本当に感謝してる。でも・・・」


ぎゅっと手を固く握った。


「私、今日は一緒に過ごしたい人がいるの。その人はこれから先の未来も不安だし、責任もあるし、歳も離れているし・・・この年齢でリスクしかないんだけど、でも私はその人と一緒にこの先を歩いてみたい」


「ふぅ・・」佐久間はゆっくりと息を吐きだした。


「なんとなくそんなこと言われる気がしたよ」

「ごめん」


「謝らなくていい。その代わり必ず幸せになれよ」


「ありがとう」


「さぁ、早く行けよ。相手が待ってるんだろ」

「うん」


舞は佐久間に頭を下げると、また駅へ向かった。


佐久間のスマホが震える。

「…ったく、こんな時に誰だよ」


“今日は一緒に飲み明かそう”


日葵ひまりかよ」

佐久間はフッと笑うと、カップルたちを背に向けて歩き出した。


駅の改札を出ると、急いでアパートに向かって走り出す。

たくさんの人の間をすり抜けて、舞が駆け抜けていく。

「はぁはぁはぁ・・・」

アパートの前に着くと、「すぅー、ハー」と呼吸を整えて、軽く胸を叩くと、階段を上がる。

ドキドキして心臓が痛い。


「あ、お姉ちゃん!来てくれたの?」


後ろからさっちゃんの声が聞こえてくる。


「舞さん」

後ろに高瀬たかせが立っている。

「あの、えっと、私」

「忘れ物か何かですか?」

高瀬が隣をすり抜けて、兄弟の手を取って部屋に戻ろうとする。


「・・・待って!」


高瀬の足が止まる。

「先に帰っといて」とさっちゃんとお兄ちゃんを部屋へ返すと、高瀬は舞に向き直った。


「舞さん、僕は・・・」


「私、幸せにしてもらいたいなんて思ってないよ。もう29だもの、自分のことは自分で幸せにできる」


「だったら・・・」


「私はあなたとあの子たちを幸せにしたいって思ってる。そうしなきゃ私幸せになれないんだから仕方ないじゃない」


「舞さん・・・」


「私はあなたと未来を歩いてみたい」


高瀬は何も言わずに静かにこちらを見ている。

風が吹く音だけが聞こえる。


「でも、その、悠真ゆうまくんが嫌だったら・・その・・」

高瀬がゆっくり歩いてくる。

「舞さん、ずるい・・・」


舞の腕を引いて、高瀬は胸の中で抱き留めた。


「えっと、・・・悠真くん?」


「僕も舞さんと一緒に歩きたい」


悠真の温かさが頬に伝わって来る。


「雪だー!」


さっちゃんが部屋から出てくる。

空を見上げると、雪が降っている。


「綺麗・・・」

舞が思わずつぶやくと、悠真がクスっと笑った。

「ん?」

「月を見た時も同じこと言ってたなって」

「そうだっけ」

「その時、僕は舞さんのこと好きになった」

「悠・・・」

次の瞬間、舞は続きを話せなくなった。


ちらりと舞う雪が悠真の肩にのっかった。



コーヒーのいい匂いが部屋に漂う。

おそろいのマグカップを4つ並べると、悠真が2つにコーヒーを注ぐ。

「さっちゃん、起きてー!」

舞がなかなか起きないさっちゃんを揺り起こす。

舞に抱かれて、さっちゃんが起きてくると、席につく。

「お兄ちゃんは早起きできてえらい!」

そう言って褒めると、嬉しそうに「まぁね」と牛乳を飲む。

「はい、じゃあ手を合わせて、いただきます!」

「いただきまーす!」


ご飯を食べ終わると、さっちゃんを抱いて自転車に乗せる。

「さぁ、保育園にいくぞー!」

「おー!」

自転車で桜の木の下を駆け抜けると、ぶわっと桜の花びらが舞う。

「綺麗だねぇ~!」

さっちゃんの元気な声を背に保育園に向かう。

このルーティンにもすっかり慣れてきた。

朝はバタバタすることも多いが、その日々も幸せだ。


「おはよう」

職場につくと、山下に名字が変わった麻帆がいつものより低い声で「おはようございます」と返してきた。

どうやら機嫌が悪いらしい。

そんなこと思っていたら「ごめんって」山下が機嫌をとるようにしゃがんで麻帆の顔を見上げている。

「上目遣いで言ってもダメ!」

「そんなぁ・・・」

山下が絶望的な顔をしている。

舞はフフと笑って肩を叩いた。


「おはよう」

佐久間が元気に入って来る。

「おはよう」

「そうだ、また同期会しないか?」

「いいけど、真由子まゆこが妊婦だからなぁ」

「日葵が会いたいって言うんだよ」

「・・・日葵ねぇ。下の名前で呼ぶとか随分仲いいのね」

「まぁな。じゃあ休みの日にランチでどうだ?」

「OK。子供のお世話を悠真に頼んでみる」

「そういや悠真くんは、最近どうなんだ?」

「やりたいこと見つけたみたいで、今一生懸命に頑張ってるよ」

「そうか」

悠真はコーヒーの魅力にのめり込んでいて、自分のカフェを出すことを目標に頑張っている。


誰かがオフィスの窓を開けた。

ふわっと通る風が暖かい。


「もう春だね」


舞はぐーっと背伸びをすると、パソコンに向かった。

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スレッズ 月丘翠 @mochikawa_22

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