第23話 一歩踏み出す
「ねぇ、お母さん。いい子にしてたからサンタさん来るよね?」
「そうね、ずっと
洗濯物を畳む手を止めて、母は温かい手で舞の頭を撫でる。
「じゃあ、舞は花嫁さんになりたいから・・・花婿さんをサンタさんにもらうの」
母は「面白い事を言うのね」と笑った。
「舞、花婿さんはサンタさんからもらうのは無理よ」
「いい子にしてたのに?」
「うん、いい子にしててもね。花婿さんは自分で選ばなきゃダメなの」
「どうして?」
「それは舞に合う人は、舞にしかわからないからよ」
「うーん」
「舞には難しかったかな」
そう言って、笑うと母はまた洗濯物を畳み始めた。
目が覚めると、お昼を過ぎている。
「また二度寝しちゃったのか…」
頭にそっと触れてみる。
起き上がると、洗い終わったころんとしたマグカップを手に取る。
“このマグカップ、引っ越し祝いにプレゼントします”
マグカップを両手で包んで持ち上げると、そのまま棚にしまった。
佐久間との約束は夜なので、まだ時間がある。
どうしようかとぼんやりと天井を見上げる。
「クリスマスか…。あ!」
考えてみると、クリスマスプレゼントを用意していない。
流石に
まだ時間はある。
化粧をして、ワンピースに着替え、コートを羽織ると、家を出た。
今日は一段と寒い。
ドアに触れるが、何かを感じることもない。
静かに手を離すと、かじかんだ手をポケットにしまった。
ショッピングモールはいつもよりもかなり混み合っている。
カップルも多いが、家族連れもかなり多い。
楽しそうな子供達の声が聞こえる。
(佐久間に何を買おうかな)
暖かそうなマフラーが目に入る。
黒とグレーで裏表になっている。シンプルなデザインだが、触り心地もいい。
(
悠真は黒系を身につけていることが多い。
顔立ち的にもラフな格好より、カチッとした服装の方が似合う。
このマフラーはきっとよく似合うだろう。
「いやいやいや」
マフラーを棚に戻すと、歩き出す。
今回は佐久間へのプレゼントなのだ。
佐久間はどちらかというと明るい色を好む傾向にある。
赤とかオレンジとか時にはピンクを身につけていることもある。
佐久間は暑がりだし、マフラーって感じじゃない。
無難なのはネクタイ?
そんなことを考えながら、色々見て回る。
プレゼントを探しているといつも考えすぎて疲れてしまう。
正解がわからなくなってしまうのだ。
疲れた脳を休めようかとたまたま空いたベンチに座った。
「あ!お姉ちゃん」
明るい女の子の声が聞こえて、駆け寄ってくる?
振り返ると、高瀬の妹が立っていた。
「えっと、さっちゃん?」
「うん、そうだよ」
さっちゃんは嬉しそうに隣に座った。
前に会ったとは違って、可愛いワンピースを着て、柔軟剤なのかいい匂いがする。
「今日は1人?」
「ううん、お兄ちゃんと長にいちゃんと一緒」
「えっと、長にいちゃんは、大きなお兄ちゃんかな?」
「うん」
高瀬のことだ。
辺りを見回すが、高瀬は見当たらない。
「今日はね、お家でクリスマスパーティーをやるの」
「へぇ、いいね」
「すごく楽しみなんだー!サンタさんも来てくれるかなぁ」
「きっと来てくれるよ。さっちゃんはすごくいい子だもん」
「ねぇ、お姉ちゃんも一緒にパーティーしよう?」
胸がドキンと鳴る。
「それは…」
「さっちゃん!」
高瀬の弟が慌てて走ってきた。
その後ろには高瀬がいる。
「お兄ちゃん」
「勝手にどっか行くな!びっくりするだろ」
「ごめんなさい」
さっちゃんは首をすくめた。
「舞さん、さっちゃんのこと見てくれて、ありがとうございました」
高瀬は頭を下げると、さっちゃんにも頭を下げるよう促した。
「ううん、別に私は何も」
「じゃあ、僕たちはこれで」
高瀬は妹と弟の手を握ると、また少しだけ頭を下げると、去っていった。
「これでいいかな」
佐久間のクリスマスプレゼントを買って鞄にしまう。
ショッピングモールを出ると、少し暗くなってきている。
もうそろそろ駅に向かわないといけない時間だ。
駅に向かってぼんやりと歩く。
「ママー」
楽しそうに甘えた女の子の声が聞こえる。
佐久間とこのまま付き合ったりしたとして、家族を作ったりするのだろうか。
子煩悩な父親になる姿が想像できる。
(もう29だもんね)
もう夢を追ったり、リスクを取ることはできない年齢だ。
傷を負えば治るのには、若い頃よりずっとずっと時間がかかる。
(だから、これでいい)
しっかりとした足取りで駅に向かう。
スマホが震える。
“今日は誰と過ごしてるのかな”
(そっとしてくれないんだから)
日葵のイタズラっぽく笑う顔が浮かんで、フッと心が和らぐ。
またスマホが震える。
日葵の言葉を見て手が止まる。
“永野!”
屈託なく笑う佐久間
“舞さん”
優しく微笑む悠真
スッと後ろから風が吹き抜けて、髪をさらりと揺らす。
(私が一緒にいたいのはー)
舞は一歩足を踏み出した。
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