第9話 エピローグ

「ぐふふふふ……。ベルタちゃんとシャルル君はかわいいねえ……。自分の娘と息子も愛おしいが、姪っ子と甥っ子も格別だ……」

「ガードナーお兄様……。その品のない笑い方はいい加減に改善なさいませんか……?」


 右手にベルタ、左手にシャルルを抱えて、ガードナーは微笑む。


 遠目から見ていれば、微笑ましくも麗しい様子なのだが。

 ガードナーの品のない笑い声を聞いてしまえば。


 変質者が幼児を抱えているようにしか思えない。


 ヴィルジニーはベルタとシャルルをガードナーの腕から、取り返した。


 愛しい娘と息子に悪影響が出ては困るのだ。


「ベルタ、シャルル。ルシフェル様と一緒に甘いものでも食べていらっしゃい」

「あい! お母様!」


 ベルタが右手をしゅたっ! と上げて、答えた。


「行こう、ベルタ。お父様のところまでかけっこ競争だよ」


 少し離れたガゼボで、座っているルシフェルを、シャルルは指さした。


「あい! シャルルおにーたま!」


 駆けだしたベルタとシャルルを微笑ましく見て。

 それからヴィルジニーはガードナーに真顔を向けた。


「それで? ガードナーお兄様? わたくしにご用事とは?」

「あ、うん。レオンとポーレットの末路なんだけど。この間王太子殿下……じゃないや、即位したから新王から手紙が来たよ。読む?」


 ガードナーはひらひらと手紙を振った。


 ヴィルジニーは迷わず答えた。


「いいえ。興味はございません。わたくし、愛する夫と二人のかわいい子どもに囲まれて、毎日しあわせですから」

「あはは。イマサラ汚物の末路なんて、聞くだけ耳汚しだもんねー」


ヴィルジニーは、そうやって普通に笑って下さいませ……と言おうとして、やめた。


「今のしあわせは……お兄様のおかげですわね」


 下手をしたら、平民上がりの娘と真実の愛だのなんだの言い出した第二王子に、虐げられる人生もあったのかもしれないのだ。

 それを思えば、今のしあわせが尊いものであると心底思う。

 好きな相手と婚姻をし、愛しい子を産んで、そして、今、家族で笑いあっている。


「ヴィルジニーがしあわせなら。兄もしあわせなんだよ。私の頭脳は家族のしあわせにためだけに、今後も使うからね!」

「そう願いたいですわ……」


 暇つぶしに国家転覆……などと言い出さないでほしい。王太子……いや、新王と懇意にしている間はそんなことはないと思いたいが。

 平和が一番……と、ヴィルジニーは心の底から願う。


 ルシフェルとベルタとシャルルが、ガゼボから手を振ってきた。


「おかーたまー、おじたまー! 一緒にお茶をのみましょー」

「よし来たベルたん! おじ様が今行くよー」


 全力で駆けだしたガードナー。


 その後を、微笑みながら、ゆっくりとヴィルジニーも歩いて行った。



 




 終わり










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