第2話 2人旅

太陽が天球の頂点を超えた頃に隣の町へと着いた。

降り立ってすぐに宿を取り、町を散策することにした。


町の市場ではその日取れた野菜や果物、この町の工芸品であろう色とりどりな陶磁器が売っていた。

昼を過ぎているからか市場で買い物をする人は多くなかったが、様々な店が所狭しと並んでいるところを見ると活気のある市場であることが見て取れた。


「そこのお兄さん、魔術師かい?」

声のした方へ振り返ると、三角巾を被った恰幅の良い四十代くらいの女性が慌てた様子で立っていた。

「そうですよ」

「やっぱりそうかい。魔術師さんや、少しお願いがあるんだけどいいかい?」


女性のお願いとは、朝から姿の見えない息子のゼンズフトくんを探して欲しいとのことだった。

僕には急ぎの用事は無かったから、もちろん承諾した。


その女性の話によるとゼンズフトくんはよく1人で街の外へ行ってしまうらしい。

そこで僕は魔術で足跡を辿ってみることにした。

幸いにも町の外れへと歩いていく小さな足跡は少なかったので迷うことは無かった。


「ゼンズフトくんだよね。一緒にお母さんのところへ帰ろうよ」

町の近くにある小さな湖の縁に座っているゼンズフトくんに声をかけた。

「…帰らない」

一言そう言ったきり黙り込んでしまった。

あまりに長い時間黙っていたから僕もなんて話しかければ良いか分からなくなって一緒に黙り込んでしまった。そのまま日が傾くほどまで2人で黙って座り込んでいた。


「お兄さんはなんでボクがここにいるってわかったの?」

しばらくしてゼンズフトくんから話しかけてきた。

「僕は魔術師だから、魔術です足跡を辿ってきた」

「えっ」

ゼンズフトくんの表情が驚愕に彩られた。

「お兄さんは魔術師なの?」

「うん」

「旅もしてる?」

「うん」

すると突然ゼンズフトくんは立ち上がって

「ボクをあなたの弟子にしてくださいっ!」

そう言った。


一緒に町へと戻りゼンズフトくんの家で僕は、ゼンズフトくんが家出を繰り返す理由をゼンズフトくんのお母さんから聞いた。

ゼンズフトくんは昔から小さい頃から好奇心が旺盛で、いつも町中を歩き回っては興味の出たものは質問して回っていたそうだ。

しかし、この町はそこまで大きくなく、数年もするうちに一通りのことは知ってしまった。そして町の中を見飽きてしまったゼンズフトくんは外の世界を見てみたいと思う様になった。そしていつしかそれは旅に出たいという思いになった。

けれども、町の外での生活はとても安定的ではない。それを知っているお母さんは1人での旅を許さなかった。

それからゼンズフトくんは家出を繰り返す様になった。


「というわけで一緒に旅をしてやってくれないでしょうか?」

「お願い!」

本当に僕に2人旅ができるのだろうか?

まだ旅人になって日の浅い僕に

しかし、そんな不安はありつつも僕にも1人での旅は心細いところがあった。

なので僕はゼンズフトくんと一緒に旅をすることにした。


その数日後に僕たちは街を出てさらに南へと向かった。ゼンズフトくんはまだ箒の乗り方を習得してないので、もちろん歩きでゆっくりと。

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エイドス 楓葉蓮 @LLENN_160

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